本の虫

著者:江添亮
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違法な職務質問をされたので東京都を訴えた裁判の控訴審は棄却、理由は突然に

職務質問裁判の控訴は棄却された。判決文は以下から読むことができる。

https://github.com/EzoeRyou/calling-110-is-suspicious

2年前の7月3日、職務質問を受けた。

警察官に職務質問をされた話し

この職務質問は明らかに違法であると感じたので、弁護士に相談の上、東京都に対して国賠訴訟を起こした。警察官というのは各都道府県の下に位置する行政組織なので、警察を訴えるというのは、その警察の所属する都道府県を訴えるということになる。

一審判決は請求棄却。理由としては、「最初の10分間は不審事由がないが、刃物などの危険物を入れることができるリュックを背負っていたから声をかけ10分間その場にとどめて話をするのは違法ではない。このとき110番通報を要請したことは不審事由にあたりその後の1時間20分の職務質問は不審事由が存在するために合法である」というわけのわからない判決が出た。

そんな判決は受け入れがたいので控訴した。その控訴は11月14日に判決があり、公訴棄却となった。

公訴棄却の判決文は一審判決に対する差分という形で書かれている。gitでバージョン管理してほしいところだ。110番通報の要請は不審事由に当たらないという至極当然のなされた。築地の往来を歩く当時の私に不審事由は存在しないが、10分間声を書けるのは違法とまでは言えないという部分は維持された。

今回追加されたのは「突然」という理由だ。突然私がその場から立ち去ろうとした、突然話を打ち切った、警察官の制止を振り切ろうとした、突然警察官のいない方向に走った、などという文が追加され、これは不審事由に当たるとされた。

これもおかしな話だ。最初の10分間だけでも、一歩でも足を動かそうものなら警察官2人がかりで抱きつかれてその場に止められたし、話というのも私から切り出さなければなにもなく、ただ最初から荷物の中身を見せろという要求をひたすら繰り返すだけであったし、私はわざわざ「そこを通してください。あなたは動く必要はありません。私が迂回します」と言って動く意思を事前に表明したし、その上で警察官は拳銃を装着している右腰を私に押し付けて「あ、拳銃に触った」などとわざとらしく声を上げたりした。最後の突然警察官のいない方向に走ったというのは事実なのだが、実は東京都の主張ではそのようなことはなかったことになってる。むしろ私の方から主張したのだ。これはさぞかし不審事由だろうから当然書き付けてくるだろうと思った所ない。弁護士によると、私が自発的に応じたということを強調したいがためにわざと省いたのだろうということであった。これだけを見ても東京都の主張には嘘が多い。走った後はすぐに私有地の駐車場に押し込められて、大勢の警察官に囲まれて私有地の駐車場内に監禁されたような状態になった。

さて、真実がどうであれ、高裁判決で認定された事実は事実となる。高裁判決の事実認定が覆ることは原則的にない。日本の裁判は三審制ということになっているが、最高裁への上告は事実関係について争うことはできない。上告は憲法違反や、従来の判例が適用できないような状況の時に行う。

それでは今回の件はどうかというと、弁護士によれば、あるそうだ。

判決文では、警察法2条1項の「警察は、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ることをもつてその責務とする。」と定めているとし、職務質問の条件を満たさない場合においても警察の諸活動は強制力を伴わない任意手段による限り、一般的に許容されるべきもので・・・有形力の行使であっても必要性、緊急性に応じて・・・具体的状況下の下で相当と認められる限度において許容されるものと解すべきであるとし、具体的な判例を挙げている。

その挙げられている判例であるが、これが今回の件にぴったり当てはまるかというと、実はそうでもない。というのも警察法2条1項に基づく、根拠規定のない警察の諸活動がどこまで許容されるかについてはあまり判例がない。というのもこの辺の解釈を要求する裁判など滅多に行われないからだ。裁判というのはとてもコストのかかる行為であり、わざわざ緊急時の警察官による有形力の行使の許容範囲の線引きを試みるような裁判は滅多に行われない。やるとするならば、他にいい方法がないので一か八か警察官による有形力の行使を違法だと認定させ、それによってその後の対応も全て違法であり無効化を狙ったものになる。

一つの判例は昭和50年(あ)第一四六号のもので、任意捜査に置いて許容される有形力の行使の限度について争ったものだ。

具体的に起こった有形力の行使としては、警察官から左手首を両手で掴まれたというものだ。これが許容されると認定された判例だ。

有形力の行使に至るまでの経緯はこうだ。車で道路脇に置かれたコンクリート製のゴミ箱に衝突する交通事故を起こした被告人は、顔が赤くて酒のにおいが強く、身体がふらつき、言葉も乱暴で、外見上酒によっていることが伺われた。そこで警察官は呼気検査に応じるよう要求したがこれを拒否。被告人は署内でマッチを課してほしいと要求し、警察官はこれを断った。被告人は「マッチを取ってくる」と言いながら立ち上がったが、警察官はこの公道を逃げ去るのではないかと思い「風船をやってからでいいではないか。」と言いながら左手首を両手で掴んだ。その後もみ合いに発展したというものだ。

これについて最高裁は、すでに事故を起こし、呼気検査拒否罪があるので本来ならば現行犯逮捕される状況にありながら警察官の配慮により逮捕をしていなかった状況で、警察官は逃げ去ると思って手首を掴んだのでこれは許容される有形力の行使である。その後被告人は警察官を殴っているが、これは公道の自由を実現するためにしたやむをえないもので正当防衛であるので暴行罪も成立しない。法は逮捕勾留されていないのであれば「何時でも退去できる」と定めているが、これは呼気検査を拒否して時間を稼ぎアルコールを身体から抜こうという被告人の公道が捜査に支障をきたすためであるので、署内のとどめたのも許容できるとしている。

この判例の具体的な状況と今回の状況はあまりにもかけ離れている。私は車を運転しておらず路上を歩いていただけで、路上の器物を損壊するなどの行為もなかったわけで、かつ職務質問をするべき不審事由も当初はなかったわけだ。この状況で声をかけ、抱きつくなどしてその場にとどめるのが許容されるべきではない。

もう一つの判例は昭和53年(あ)一七一七号のもので、交通の安全及び交通秩序の維持などに必要な警察の諸活動と警察法二条及び警察官職務執行法一条との関係について争ったものだ。

この事件のあらましはこうだ。警察はかねてから飲酒運転の多発地点とされている場所で一斉検問をしていた。この場所を通過する車両のすべてに停止を求めて、自動車検問を行った。この日1日の検問では被告人を含む酒気帯び運転5人を検挙した。被告人はそもそもこのような一斉検問は違法であり、違法な検問の違法な呼気検査によって収集された証拠は違法証拠であり、証拠能力がないと主張して裁判になった。

最高裁はこれについて、適法であると判断した。

今回の件は路上に検問を設けて通行人すべてを呼び止めていたものではない。警察の主張によれば、たまたま車で築地の道路を巡回中、私とすれ違った所不審(帽子を目深にかぶりうつむいて下を向いて歩いていた)を認めたのでパトカーを停車し、後を追い、自販機で飲み物を買っていた私に声をかけたということだ。この判例が今回の場合と何の関係があるのだろうか。

弁護士によれば、警察法2条1項が許容する範囲について新たな判例を残すのは、結果がどうあれ意義があることであるとのことだった。そこで上告することにした。