本の虫

著者:江添亮
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スノーボード1回目

突然、スノーボードがしたいと思い立った。去年はスキーをしたのでにわかにスキー欲を出し、一時はスキー用具一式を買い揃えようと思ったこともあったが、ウィンタースポーツシーズンも末期の3月末にスキーをしたこともあって、そのままスキー欲はしぼんでしまった。今年は2月中に仲間内でスキーに行こうという話があったので、ふと、スキーではなくスノーボードも体験してみたいと思い立った。どうやら、都内から日帰りできるスキー場はいくつもあるようだ。

スキーやスノーボードは手軽にできる。手ぶらでカネだけ持ってスキー場に行って道具をすべて現地でレンタルすればいいだけだ。しかしレンタルというのも結構高い。スキーやスノーボード一式とウェアで1万円ぐらいはかかる。そんなにかかるのであればいっそのこと買ってしまうというのはどうだろうか。スキーやスノーボードの道具は安いものならば数万円で手に入るし、ウェアも数万円で手に入る。ということは6回から10回ぐらいレンタルするならば買ってしまっても損はないはずだ。特にウェアはスキーでもスノーボードでも使い回せる上、スキーやスノーボードと違って錆びることもないし手入れも楽で長期間使える。

そんなわけで土曜日に神保町から小川町にかけてのやたらとスポーツ洋品店が密集している場所に降り立った。なぜこんなところに古本屋やスポーツ用品店が密集しているかと言うと、この辺は学生街だったからだそうだ。

何軒かの店を冷かした末にとうとうスノーボード用具を一式買ってしまった。もっと安いものもあったし、もとよりスノーボード道具の質を判断する知識もないのだが、最安値よりは少し高い道具を買ってしまった。

スノーボードでやや想定していた予算を上回ったのでスキーウェアは安くしたいところだが、ここにも沼があった。ゴアテックスだ。過去の少ないスキーの経験から、スキーウェアはとても蒸れるということがわかっていた。しかしゴアテックス素材ならば蒸れにくいはずだ。しかしどの店でもゴアテックス素材のウェアは値段が倍以上に高い。一方で蒸れるとやる気を失う。結果としてゴアテックス素材のウェアを買ってしまった。

さて、道具はすべて買った。スノーボード板とブーツとウェアを入れる専用のリュックまで買ってしまった。これでいつでもスノーボードに行ける。そう、明日の日曜日でも。

都内から日帰りで行けるスキー場でも、旅行会社を経由して交通とリフト券を一括して入手すればいくらか安くなる。そういう事情もあるが、本当に都内から日帰りでスキー場に行けるのか試すためにも、何の計画もたてず、突発的に道具を購入した翌日に電撃的にスキー場に突撃することにした。一人で行こうと思っていたが、同じくスノーボードを一度もしたことがない妻もこの無計画を気に入り、同行するという。

我々の当初の計画では、9時頃にガーラ湯沢に到着し、午前中に現地でスノーボードレッスンを受け、午後は自由に滑るというものであった。

かくして我々は日曜日の朝7時に家を出て、9時過ぎにガーラ湯沢に到着した。ガーラ湯沢を利用したことは一度もなくて勝手がわからなかったため、リフト券の購入、着替え、レンタル手続きに手間取り、残念ながら午前のスノーボードレッスンの受付は逃してしまった。

午後のレッスンまでは時間がある。特に妻は「レッスン費用は甚だ高し。我は体で覚える派なり」と蛮族のような思考の持ち主である。そこで我々は前日にインターネット上のスノーボードの滑り方の解説を読んだ付け焼き刃の知識を元に、入口近くの訓練用の浅い傾斜角の斜面で訓練を試みたが、一向に要領を得ない。少なくともスキーはこうではなかった。スキーは未経験でも、もう少しはマシな動きができたはずだ。スキーの知識はスノーボードでは何の役にも立たないようだ。

そのような危うい状態で、蛮族系の妻は「レッスンは午後たり、遅し遅し。我が夫何ぞリフトに乗って初心者用のコースを滑らざる」と提案した。我々は苦労しながらリフトに乗り、つかの間の雪山の眺めを堪能し、そして死ぬ思いをしながらリフトから降りた。スキーはこうではなかった。スキーでリフトから降りるのに苦労したのは本当に最初の一回目だけであった。

ガーラ湯沢の初心者用のリフトには2つのコースがある。リフトの横を真っ直ぐ滑り降りるコースと、リフト降り場から奥に行きカーブして戻るコースだ。私は前者のコースは最も短いので最も簡単であろうと主張したが、妻は後者のコースのほうがより簡単であると主張した。その理由は、後者のコースは特に初心者用のコースであると看板が出ているのみならず、傾斜角も前者より浅いというものだ。なるほど一理ある。スキー経験者である我々には当然の理のように思われたので、我々は後者のコースに挑んだ。スノーボードを知る読者はこれから我々の経験する過酷な運命についてすでに予想がつくだろう。

我々は数メートルおきに転びながら、とても傾斜角の浅い初心者用コースを長時間かけて転がり落ちた。スノーボードの完全な初心者は、むしろ傾斜角の極めて浅い場所の方がつらいのだ。というのも、サイドスリップで進みにくいからである。

ほうほうの体でからくも初心者用のコースから生還した我々は、午後のレッスン開始を待つのが懸命であると判断した。しかし、果たしてこの何もできない状況から2時間ばかりレッスンをしたところで何を学べるというのだろうか。状況は絶望的なように思われ、早くもスノーボードの購入を後悔し始めていた。

時間になり、未経験者用のレッスンが始まった。我々はシューズの履き方、スノーボードの取り付け方、片足で平地を移動する方法を学び、初心者用コースのリフトに乗った。そして再び死ぬ思いをしてリフトから降りた。

レッスンでは、前者のコースを使った。傾斜角がやや深い方のコースだ。スノーボードでは傾斜角が深いとサイドスリップで進みやすくなり、むしろ楽になる。そのため、スキー用の傾斜角の浅い初心者用のコースは、必ずしもスノーボードにとって初心者用のコースではない。むしろ中級者用のある程度傾斜角のあるコースのほうがマシだという。

我々はヒールエッジによるサイドスリップを学んだ。不思議なことに、あれほど絶望的に何もできなかったはずが、インストラクターの指導の結果、3回滑るだけでヒールエッジによるサイドスリップでかなり安定して滑り降りることができるようになった。とにもかくにもスノーボードで斜面をゆっくりと安全に滑り降りることができるようになった我々は、ボーゲンを学んだスキー初心者のごとく有頂天になりすっかり自信を取り戻した。その自信はトゥエッジによるサイドスリップを学ぶ場面で再び打ち砕かれた。

トゥエッジ! なんという無茶な滑り方。滑っている前方が見えない恐怖はもとより、バランスがとてつもなく難しい。そして背中から転倒してしまう。スキーでは初心者はまずやらない後ろ向きの滑り方をスノーボードではやるというのか! しかもインストラクターによれば、トゥエッジのサイドスリップは最も初歩的なテクニックであり、これができなければスノーボードではターンすらできないという。

トゥエッジによるサイドスリップは当初絶望的に思われたが、一回目を滑り終わる頃にはだいぶコツを掴み、二回目ではなんと安定してトゥエッジによるサイドスリップだけで滑り降りることができるようになっていた。

これはとても奇妙な感覚だ。このレッスンで学んだスノーボードの滑り方は、全て事前にインターネット上の文章と動画で学んでいたことだ。それがどういうものであるかは知っていた。しかし、実践することはできなかった。それがインストラクターの指導があると短時間で学べるというのはどういうことだろう。プログラミングの教育もこれほど簡単であればいいのだが。

すっかり気を良くした筆者は、レッスン終了後にトゥエッジ側のターンを試みたが、見事に失敗して背中から転んでしまった。あまりにも急なことだったので受け身も間に合わず、頭を地面に打ち付けてしまった。痛みはほとんどなかったのだが、やや危険な転び方であった。次に来る時はヘルメットを着用しようと決意した。

結果としてスノーボードは続けられそうだ。今シーズンだけで元を取るためには毎週のように行かなければならないが、思い立ったその日の午前中にスキー場に行って午後だけ滑るということもできるので、お手軽なスポーツだ。ただし金はかかる。