濫用に当たる職務質問を受けたと考えたので弁護士に相談して訴訟を起こすことになった話
去る7月3日の午後の通勤途中に、私は職務質問を受けた。その次第は以下のブログ記事に職務質問を受けた当日書いて投稿した。ただし、投稿時に日付を超えてしまったので投稿日時は7月4日になっている。
さて、振り返って見るに、私は先日の職務質問が警察官職務執行法第一条に規定された、「目的のため必要な最小の限度」を超えていて、「濫用」にあたるのではないかと考える。というのも、
- 「下を向いて歩いていた」、「帽子を目深にかぶっていた」という理由は、同法二条にある「合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由」にはならない。
- 仮に「疑うに足りる相当な理由」であったとしても、職務質問を開始してかなり早い段階で、その疑いに対して「重い荷物を背負って長距離を歩いたので疲れたのではないか」、「人間は下ぐらい向くものだ」、「日差しが強く帽子をかぶるのは当然だ」と回答しているので、疑いに対して合理的な理由を与え、職務質問は中止されるべきであった。
- 当日は事件が起きて容疑者が付近を逃走中といったような、特に集中して職務質問を行うべき緊急の理由もなかった。
- 当日の路上は通行人がそれほど多くなく、私は路上に止まっていても「交通の妨害」にはならなかったので、無人駐車場という私有地に移動させる根拠はなかった。
- 一時間以上も停止させて同じ質問をし、自発的に任意の所持品検査に応じない限り停止を解かないのは「必要な最小の限度」を超えている。
もちろん、これは私の常識の範囲内で判断したことであり、あるいは濫用にあたらない最小の限度かもしれず、またこの行為が適法な職務質問とするべき根拠となる法律や判例が存在するかもしれない。そこで私は、弁護士に相談をすることにした。
世の中に弁護士は大勢いるが、特に似たような事例で裁判を起こしているような弁護士のほうが、関連する法律や判例をすでに調べた経験もあり、適切な判断ができるだろうと考えた。
また過去の判例を調べると、2013年に秋葉原で職質を受けてビクトリノックスを押収されたという件で争った判例がある。この裁判を担当した弁護士であれば適任であろうと考え、調べたところ、「明るい警察を実現する全国ネットワーク」という団体の清水勉弁護士であることがわかったので、早速連絡を取ることにした。
FrontPage - 明るい警察を実現する全国ネットワーク
連絡を取ったところ、さくら通り法律事務所の相談料は30分につき5400円ということであったので、相談をしに行くことにした。
さて相談をしたところ、弁護士の意見では、今回の件は職質を始めること自体が違法であったということであった。つまり上記の1.の段階で私の判断が正しかったということになる。
さて、職務質問が違法である可能性が高いことを確認した上で、今後の行動を決定しなければならない。もし職務質問が違法であれば、私の権利が不当に侵害されたことになる。ましてや私は通勤途中に毎回1時間以上停止させられたくはない。弁護士と相談した上で今後私が取りうる行動としては、以下の選択肢がある。
- 何もしない
- 警察に対して違法な職務質問であったと話し合いをする
- 人権擁護委員会や弁護士会を通じて警察に違法な職務質問であったと話し合いをする
- 違法な職務質問を受けたので賠償を求めて訴訟を起こす
権利の上にあぐらをかいていても意味がなく、憲法に規定された国民に保障された自由と権利を不断の努力で保持するためにも、私は裁判を起こして判決を出すのが最も適切な行動であると判断したので、裁判を起こすことにした。
その場で弁護士に裁判を依頼した場合の費用を算出してもらったところ、裁判費用、裁判のためにかかる経費、弁護士への報酬を諸々合わせて、合計61万円であるという。今回の相談料は61万円の中に含まれるそうだ。不断の努力のためであれば、61万円は出してもよい額だ。また、事前に調べたところ、裁判を起こすのにかかる費用は5,60万円であるらしいので、61万円は相場通りの適正な額であろうと判断した。
そこで、裁判を依頼した。
ところで、弁護士に相談したところ、職務質問にまつわる証明しようのない話をいくつか聞くことができた。与太話として興味深い。
まず、職務質問にあいやすいのは、男で、スーツを着ておらず、大きなリュックを背負っている人間であるという。私の状況に偶然一致する。
私に職務質問をした警察官は3人組で、一人は若く、二人は中年であった。主に私と話をしたのは中年のうちの一人で、若い警察官も若干の話をした。残る中年の警察官とはほとんど話をしなかった。
弁護士の推測によれば、私は警察官による職務質問の練習台にされたのだということであった。若い警察官に職務質問を練習させるために往来で職務質問をさせる。私とよく話した方の中年警察官は職務質問を指導する立場にあり、ほとんど話をしなかった方の中年警察官は、指導を監督する立場にあったのではないかということであった。ただ、警察官が3人いるのは珍しいことで、通常は指導役と練習生の2人組であるという。OJTじゃあるまいし。
警察官は、皆申し合わせたように「お願い」とか「説得」という言葉を一貫して使った。これは職務質問の訓練マニュアルの存在を示唆するものであるが、実際、そのような訓練マニュアルは存在するだろうということであった。
警察官は「平時から犯罪を未然に防ぐため、こうして一日に5,60件の職質をしているわけです」と発言した。犯罪を犯しそうな怪しい人間が都合よく安定して一日あたり5,60人発見できるのは不思議で、これは職務質問のノルマの存在を示唆するものである。弁護士は職務質問ノルマが存在するのではないかと考えているが、警察はこれまでにノルマの存在を認めていないのだそうだ。
私は職質をされた後も、平日は同じ帽子、同じ服装、同じリュックを背負って同じ道を同じ歩き方で通勤のために徒歩で移動している。いまだに職務質問を再現できていないが、今回の件で私は警察に職務質問をすると面倒な相手として認識されたので、今後、職務質問はされにくいであろうということであった。
最後に、裁判は時間がかかるので続報はもう少し先の話になるだろう。弁護士によれば、1年から1年半はかかるとのことであった。