C++標準化委員会の文書: P0033R1-P0059R1
P0033R1: Re-enabling shared_from_this
enable_shared_from_thisの規程を書き直す提案。
enable_shared_from_thisとは、クラスの基本クラスとして使うと、shared_from_thisというメンバー関数が追加され、そのクラスのオブジェクトを現在所有しているshared_ptrが返る。
class X : public std::enable_shared_from_this<X> { } ;
int main()
{
auto sp1 = std::make_shared<X>() ;
// sp1とsp2は所有権を共有する
auto sp2 = sp1->shared_from_this() ;
}
問題は、複数のshared_ptrに所有された場合どうなるのだろうか。
X * ptr = new X{} ;
std::shared_ptr<X> sp1( ptr ) ;
std::sahred_ptr<X> sp2( ptr, [](void *){} ) ;
// sp1とsp2のどちらと所有権を同じくするshared_ptrが変えるのか?
ptr->shared_from_this() ;
規格はこの場合の挙動について述べていない。既存の実装はすべて、sp2はsp1を上書きする。しかしこの挙動は、単にこの可能性を考えなかっただけにすぎない。Boostのshared_ptrは書きかえない。これはユーザーのフィードバックによるものである。
これを考察すると、最初のshared_ptrが所有権を持つのが自然で、デリーターが何もしないshared_ptrを作りたいことはあるかもしれず、この例が動いてほしい場合はあるが、動かないでいて欲しい場合はない。そこで、最初のshared_ptrから上書きされない決定がなされた。
また、weak_ptrを返すweak_from_thisも追加された。
P0035R1: Dynamic memory allocation for over-aligned data
operator newにオーバーアラインを守るオーバーロードを追加する提案。
問題は、この提案だとだいぶ文法が汚いことになるのではないか。
auto * ptr = new(static_cast<std::align_val_t>(32)) int[128] ;
P0037R1: Fixed-Point Real Numbers
固定少数点数ライブラリ、fixed_point<ReprType, Exponent>の提案。
P0040R1: Extending memory management tools
メモリ管理のためのライブラリとして、デストラクターを呼ぶdestroy, uninitialized_move, uninitialized_value_construct, uninitialized_default_constructを追加。これらはコア言語機能だけでも行えるが、記述が面倒なのでライブラリとしてあると便利だ。
P0046R1: Change is_transparent to metafunction (Revision 1)
連想コンテナーでheterogeneous lookupを許可するかどうかを判断するにはcomparatorにis_transparentというネストされた型名が必要だが、これをpermits_heterogeneous_lookup<T>というわかりやすいメタ関数に置き換える提案。
[PDF] P0052R1: Generic Scope Guard and RAII Wrapper for the Standard Library
汎用RAIIラッパーライブラリの提案。
#include <scope>
int main()
{
{
auto file = std::make_unique_resource( fopen("hoge", "w"), &fclose ) ;
}
{
auto memory = std::make_unique_resource( malloc( 100 ), &free ) ;
}
{
auto s1 = std::make_scope_exit( []{ std::cout << "leave scope" ; } ) ;
auto s2 = std::make_scope_success( []{ std::cout << "leave scope normaly" ; } ) ;
auto s3 = std::make_scope_fail( []{ std::cout << "leave scope by exception"} ) ;
}
}
unique_resourceは、ある型のオブジェクトを保持し、破棄されるタイミングでそのオブジェクトを引数に渡してデリーターを呼んでくれる。
scoped_exitは、脱出関数を引数に取り、破棄されるタイミングで脱出関数を呼んでくれる。make_scope_xxxには3種類ある。exitはスコープから抜けたら必ず脱出関数を呼ぶ。successは例外によらずにスコープを抜けた場合にのみ脱出関数が呼ばれる。failは、例外でスコープを抜けた場合のみに脱出関数が呼ばれる。
もうひとつ、make_unique_resource_checked(R r, S invalid, D d)という関数があり、これはrがinvalidに等しい場合、返されるunique_resourceは、すでにreleaseが呼び出されたあとである。
今回の変更点は、unique_resourceのリソースとデリーターは、無例外コピー可能な型でなければならないとするもの。これにより設計が単純になり、無例外コピー可能ではないstd::functionも使う必要がなくなる。また、リファレンスを渡す場合は、std::ref/crefをユーザーが使わなければならない。
P0055R1: On Interactions Between Coroutines and Networking Library
提案されているネットワークライブラリの非同期呼び出しとしてfutureが使われているが、コルーチンを使うようにしたらオーバーヘッドが下がった上にコードも簡潔になったという文書。
[PDF] P0057R2: Wording for Coroutines
コルーチンの文面案。
[PDF] P0058R1: An Interface for Abstracting Execution
スレッドプール、協調型ファイバー、SIMD、GPGPUまで含めた実行媒体を表現できるexecutorライブラリの提案。スレッドからSIMDやGPGPUまでを包括したいいライブラリが設計できるとは思えない。
[PDF] P0059R1: A proposal to add a ring span to the standard library
ring_spanライブラリの提案。
この提案は名前が悪い。ring_viewとでも改名すべきではないだろうか。
いわゆるリングバッファーライブラリなのだが、前回の提案が固定長リングバッファーと動的リングバッファーの2つがあったのに対し、この提案では、ring_spanに統一されてしまっている。ring_spanは連続したストレージ上にリングバッファーを構築するが、ストレージの所有はしない。ストレージはユーザーが用意する。
つまりデフォルト構築もできないコンテナーなのだが、すごく使いづらい気がする。
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