本の虫

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自作のサポセン応答AIを作ったとされるニューヨーク市の職員は単にロボット声で応答していただけだった

以下のような報道記事が上がっている。

ニューヨーク市のヘルプデスク職員、自作のAIプログラムに仕事をさせて停職処分 - BusinessNewsline

日付は執筆時点で"Posted Yesterday, by Anthony Holt"と書かれている。つい昨日、2015年10月2日の最新のニュースだ。ガイジン風の名前も信憑性が高い。おそらくは翻訳記事に違いない。重要な内容は以下の通りである。

ニューヨーク市がヘルプデスクの電話対応の作業を自作のAIプログラムに代行させていたとして、このヘルプデスクの職員に対して停職20日間の処分を下していたことが判った。

この職員は、Ronald Dillonという人物で、彼は自分の声とそっくりの自動音声応答システムを自作してヘルプデスクにかかってくる様々な質問をそのAIシステムを使って答えさせていた。

しかし、対応に疑問を感じた人が通報を行うことで、AIプログラムを使って電話対応を行わせていたことが発覚し、今回の処分に至った。

彼が自作したプログラムは、電話を通じて完璧にヘルプデスクの対応を行うことができるというもので、普通に電話対応を聞いた範囲では、対応を行っているのが人間ではなくロボットプログラムであるということを認識することはできない程の高度なものとなる。

このことは既に、多くのマスコミで報じられる状況ともなっており、ニューヨーク市が仕事をさぼった職員を停職処分にしたという以前の問題として、彼の作ったAIプログラムの出来があまりにも高度すぎることが大きな関心を集めている。

一部報道によるとこのRonald Dillonという人物は数学科を卒業してMBAを取得した秀才で、ニューヨーク市では元々はシステム開発のプロジェクトマネージャーをしていたが、その後、システム部が外部委託となったことを受けて、ヘルプデスクのサポート係に異動になったとしている。

なるほど、実際スゴイニュースだ。ヤバイ級ハッカーをサポセンのような分不相応にスゴイシツレイな職にあてがったために起こった痛快なニュースのように読める。このハッカーのウカツな上司にはケジメが必要だろう。

記事にはRonald Dillonなる人物の実際の応答音声らしきものがある。さて聞いてみると、呼吸や間投詞が多く、ものすごく高度に洗練された合成マイコ音声を使っていることがわかる。さすがネオニューヨークのハッカーは格が違う。

いやそんなバカな。そんな自動応答システムは、仮に作れたとしても、一人の天才の手によって作れるわけがない。「すでに、多くのマスコミで報じられる状況」で、ニューヨークの出来事であるので、さぞかし英語圏の報道も多いであろうと検索してみたところ、以下のような記事が引っかかった。

City Worker Gets 20-Day Suspension for Using Robot Voice to Answer Phone - Civic Center - DNAinfo.com New York

日付は2014年10月31日、去年のニュースである。これによると、

ニューヨーク市の保健局の職員は、カスタマーサービスの電話にロボット声で対応したことにより、20日間の停職処分を受けた。処分を受けた職員のRonald Dillonは同僚と一般市民に対するコンピューター関係の問題を解決する職についているが、上司の注意にもかかわらず、電話の応答に、意図的にロボット風の声を出して応答したという。

保健局によれば、2013年の2月から4月にかけて、少なくとも5回はロボット声(記事中では、Siri風、droid模倣という表現も使われている)で応答したという。

調査に使われた録音では、Dillonは電話口で、「ゆっくりとした、抑揚のない、過剰に明瞭な発音」で話したという。

Dillonによれば、ロボットを真似たのではなく、単に上司に渡されたマニュアルをゆっくりと読み上げただけだという。

Dillonは速いブルックリンなまりで話すので、うまく聞き取れないことがあるために単語ごとに読み上げたのだという。

Dillonはまた、彼はあまり人から好かれない性格であるため、上司が見せしめのために処罰を加えたのだと主徴している。

取材に答えたDillonは、上司から自分の声の抑揚について注意されたので、なるべく聞き取りやすい声を出すように努力しただけだと答えている。

裁判では、Dillonは上司に反抗するために意図的にロボット声を出したと判断された。

Dillonは1976年から保健局で働いていて、これまでにこのような処分を受けたことはない。

Dillonはかつて保健局のプロジェクトマネージャー(技術的なものであるとは書かれていない)であったが、3年前に本人の意思に反してサポセン業務に配置転換させられたという。サポセン業務はDillonには経験がなく、十分にこなす能力もない。「パワハラである」と主張している。

さて、もうひとつの記事がある。

NYC Health Department worker answers phone in robot voice - NY Daily News

日付は2015年9月29日。去年30日の停職処分を受けたRonald Dillonは、またもやロボット声を模倣したかどで、20日の停職処分にあったと報じているニュースだ。

保健局に寄せられる苦情のほとんどはDillonのロボット声に対するものである

上司によれば、Dillonは自分の技能と教育が現在のサポセン業務には分不相応であるが、配置転換が認められないため、仕事をサボタージュしているのであるという。

Dillonはこれを否定したが、裁判では認められなかった。

自動応答AIを開発したなどという話は英語圏のニュースには一切見当たらない。