本の虫

著者:江添亮
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C++標準化委員会の文書 2015-04 pre-Lenexaのレビュー: N4440-N4449

N4440: Feature-testing recommendations for C++

機能テストマクロの提案。C++17機能に対応するマクロが追加されている。

[PDF注意] N4441: SG5: Transactional Memory (TM) Meeting Minutes 2015-03-23 and 2015-04-06

トランザクショナルメモリーの会議の議事録。

N4442: Default argument for second parameter of std::advance (Rev. 1)

std::advanceの第二引数にデフォルト実引数として1を追加する提案。

std::advance( iter, 1 ) ;

のかわりに、

std::advance( iter ) ;

と書ける。

N4443: Introducing alias size_type for type size_t in class std::bitset (Rev. 1 )

std::bitsetにネストされた型名™size_typeを追加する提案。

他のコンテナーとあわせることで、ジェネリックなコードやポータブルなコードを書きやすくなる。

N4444: Linux-Kernel Memory Model

現行のC/C++のメモリーモデルがLinuxカーネル開発者のお気に召さなかった問題を受けて、Linuxカーネルのメモリモデルをまとめた文書。

Linuxカーネルのメモリモデルについて解説した文書。前回のN4374からの変更点はREAD_ONCE()とWRITE_ONCE()マクロの解説。

N4445: Overly attached promise

promiseに共有状態を管理するためのリソースを破棄させるメンバー関数、resetとreleaseの追加。

あるpromiseオブジェクトを使ったとする。

std::future<int> f()
{
    std::promise<int> p ;
    auto future = p.get_future() ;
    p.set_value( 42 ) ;

    // これ以降、promiseは使わない

    // 何らかの時間のかかる処理

    // promiseオブジェクトが破棄される
    return future ;
}

上記の例では、何らかの時間のかかる処理をしているあいだ、promiseオブジェクトは生きている。すると、共有状態を維持するためのリソースも破棄されないまま維持されてしまう。リソースの制約の厳しい環境では、このような不必要なリソースを早期に破棄したい需要がある。

現行規格でも、ムーブを使えばリソースの破棄は可能だ。以下のような方法でpromiseのオブジェクトpをムーブさせてリソースを開放させられる。

p = std::promise<int>{} ; // これでもよい。
std::promise<int>( std::move(p) ) ; // こちらのほうがわかりやすい

しかし、どちらも冗長でわかりにくい。N4445では、promiseから共有状態のリソースを破棄するためのメンバー関数、resetとreleaseを追加する提案をしている。

releaseは共有状態の破棄。resetは空のpromiseとswapをしたかのように働く。

N4446: The missing INVOKE related trait

ある型がある並びの引数の型で関数呼び出しできるかを調べるis_callableの提案。

より厳密に説明すると、N4169で入ったinvokeが未評価オペランドにおいて合法かどうかを確かめる。is_callableの提案。

template <class, class R = void> struct is_callable; // not defined
template <class Fn, class... ArgTypes, class R>
  struct is_callable<Fn(ArgTypes...), R>;

たとえば、is_callable< F ( A0, A1, A2 ) >::valueは、std::invoke< F, A0, A1, A2>が合法の場合にtrueを、substitutionに失敗する場合にfalseを返す。

void f( std::string, std::vector ) ;

constexpr bool b = std::is_callable_v< decltype(&f) ( std::string, std::vector) > ;

[PDF注意] N4447: From a type T, gather members name and type information, via variadic template expansion

「型Tからメンバー名と型情報をVariadic Templates展開で得る」という、なんとも説明的で実用的なタイトルの提案論文。内容として派生的リフレクション機能だ。

その提案内容も極めて実用的だ。typedef<T, C>, typename<T, C>, typeid<T, C>という文法を追加する。Tはクラス型で、Cはコンセプトか型名で、constexpr operator ()でbool値を返す。trueを返したメンバーだけが展開される。

その動作は、サンプルコードを見たほうが良い。


using namespace std;

namespace ns {
    struct X {
        int x, y;
    };
}

vector<std::string> names{ typeid<ns::X, is_member_object_pointer>... };

tuple<typename<ns::X, is_member_object_pointer>...>
    mytuple = make_tuple(typedef<ns::X, is_member_object_pointer>...);

最後の二行のコードは、コンパイラーによって以下のように変換される。

vector<string> names { "x","y" };

tuple<ns::X::int, ns::X::int>
    mytuple = make_tuple(
        &ns::some_struct::x,
        &ns::some_struct::y);

この提案は新しいキーワードを必要としないしASTコントロールも必要としないし特別なコンパイラーマジックやライブラリーも必要としない。

用途は、シリアライゼーション、メタプログラミング、型変換、イベント駆動開発。テスト駆動開発、GUIプロパティエディター、データベースオブジェクトのマッピングインターフェース、ドキュメントの自動化、コンセプトの自動チェック、コンストラクターのリフレクション。

まあ、便利だとは思うのだが、なんとも低級な機能だ。

N4448: Rounding and Overflow in C++

演算の結果の丸めとオーバーフローの挙動を規定できるライブラリの提案。

丸めモードにはすでにfenv.hがあるが、これは不十分だとしている。

丸めモードに対しては、以下の挙動が提案されている。

enum class rounding {
  all_to_neg_inf, all_to_pos_inf,
  all_to_zero, all_away_zero,
  all_to_even, all_to_odd,
  all_fastest, all_smallest,
  all_unspecified,
  tie_to_neg_inf, tie_to_pos_inf,
  tie_to_zero, tie_away_zero,
  tie_to_even, tie_to_odd,
  tie_fastest, tie_smallest,
  tie_unspecified
};

fastestは実行速度優先。smallestは誤差最小優先。

関数には、convertと、divideとrshiftが用意されている。

オーバーフローには、以下の挙動が提案されている。

enum class overflow {
  impossible, undefined, abort, exception,
  special,
  saturate, modulo_shifted, modulo_dividend, modulo_divisor, modulo_positive
};

impossible: オーバーフローは起こりえない。これを指定したプログラムは厳格な検証によりオーバーフローがー起こりえないことを証明すること。

undefined: オーバーフローはまれにしか起こらないので考えなくてよい。

abort: オーバーフローが起きたらabortする。検出が必要。

exception: オーバーフローが起きたら例外を投げる。検出が必要。

special: オーバーフローが起きたら特別な値を返す(IEE浮動小数点数など)

saturate: オーバーフローが起きたら妥当な範囲の値で最も近いものを返す。

オーバーフローを指定できる関数には、convertの他に、limit( lower, upper value )とその派生版と、lshiftが提案されている。

最後に、丸めとオーバーフローを両方取るconvertとbshiftが提案されている。

N4449: Message Digest Library for C++

暗号に使える強度を持ったハッシュ関数ライブラリの提案。

「設計はPythonのhashlibモジュールから恥ずかしげもなくパクった」

まだ文面が不完全だが、Pythonのhashlib風のインターフェースになっている。

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どうやら弊社では、自社から出た最新の参考書を自腹で買う社員が多いようだ。他ならぬKnuth本ならば仕方あるまい。しかし、ご存命のうちに完成するのだろうか。

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