Linus様がSystemdにぶちきれる
systemdは、/proc/cmdlineをパースして、もし、その中に"debug"という文字列を発見した場合、大量の冗長なデバッグメッセージをdmsegに出力する。これは様々な問題を引き起こす。まず、"debug"というあまりに一般的すぎる文字列に勝手に反応してしまうことがひとつ。dmseg、すなわちカーネルのリングバッファーをsystemdの冗長なデバッグメッセージだけで溢れ返させてしまうことがひとつ。そして、なぜかLinuxカーネルのブートに失敗してしまうことがひとつ。
Bug 76935 – Do not parse "debug" command line parameter
カーネルコマンドラインに"debug"を与えると、systemdによりパースされる。適当なassertに引っかかると、こんな風にぶっ放される。
[ 150.308000] systemd-journald[1559]: Assertion 'dual_timestamp_is_set(&e->timestamp)' failed at src/libsystemd/sd-event/sd-event.c:2191, function sd_event_get_now_monotonic(). Ignoring. [ 150.308000] systemd-journald[1559]: Assertion 'dual_timestamp_is_set(&e->timestamp)' failed at src/libsystemd/sd-event/sd-event.c:2191, function sd_event_get_now_monotonic(). Ignoring.dmsegがあふれかえり、ログインすらできなくなる。ブートさせるためには、リブートしてコマンドラインから"debug"を取り除かなければならない。だがしかし!、俺はsystemdに邪魔されることなく、"debug"を与えてカーネルデバッグメッセージをみたいんだよ。
systemdがやるべきなのは、"debug"をパースするんじゃなくて、何らかの名前空間を使うべきなんだ。たとえば、"systemd.debug"とかさ。"debug"はカーネルコマンドラインパラメーターであって、systemdのためじゃない。
これに対し、Kay Sieversは、以下のように答えている。
これは仕様だ。何かがぶっ壊れたときは、"debug"はすでに必要以上に大量のメッセージを出力するだろう。
一般的な言葉である"debug"は、基本OSツールからも読み込まれている。
俺は同意しない。一般名詞は一般名詞だ。最初に使った奴に権利が発生するものじゃない。
この問題に対し、Linuxカーネル側で対応すべく、Steven Rostedtによって、/proc/cmdlineから"debug"を隠すパッチがMLに投下された。
LKML: Steven Rostedt: [RFC PATCH] cmdline: Hide "debug" from /proc/cmdline
Date Wed, 2 Apr 2014 14:42:19 -0400 From Steven Rostedt <> Subject [RFC PATCH] cmdline: Hide "debug" from /proc/cmdlineどうやら、特定のユーザースペースのinitプログラムを利用しているシステムは、カーネルコマンドラインに"debug"という文字列があるとブートしないようである。何が起こっているかというと、このユーザースペースのツールはカーネルコマンドラインをパースし、もし"debug"なる文字列を発見したならば、システムがブートしないほど大量のメッセージを吐き出すためである。これにより、カーネルに対する"debug"というオプションが役に立たなくなるものである。
このバグは同ツールの開発者に報告されたるも、
https://bugs.freedesktop.org/show_bug.cgi?id=76935
返答は:
「一般名詞は一般名詞だ。最初に使った奴に権利が発生するものじゃない」
すなわち、「カーネル」のコマンドラインにある"debug"なる宣言は、カーネルが最初に使ったからという理由で、カーネルが所有しているものではないのだという。彼らは自分のバグの修正を拒んでいる。
さて、吾輩の返答は、我々はカーネルコマンドラインを所有しているのであるからして、我々がそう望むのであれば、ユーザーから見せないことも可能であるということだ。すなわち、このパッチを提案する。このパッチは、"debug"を/proc/cmdlineから隠すものであり、その結果、ツールがパースして、その結果、カーネルのデバッグに支障をきたす懸念を取り除くものである。
訳注:この後に続くパッチは、ユーザースペースに見せるカーネルコマンドライン、すなわち/proc/cmdline用の文字列から、"debug"という文字列を検索して、全て取り除く内容のコードである。
さて、Linus Torvaldsの返信
LKML: Linus Torvalds: Re: [RFC PATCH] cmdline: Hide "debug" from /proc/cmdline
Date Wed, 2 Apr 2014 11:57:41 -0700 Subject Re: [RFC PATCH] cmdline: Hide "debug" from /proc/cmdline From Linus Torvalds <>その「奴ら」というのは、Kay Sieversのことだろう。
Kay、テメーの書いたコードの問題をテメーで直さねーから、カーネルで対応しなきゃならねーのには、もういい加減うんざりだぜ。
Greg、言っておくが、俺はこの毎度おなじみの問題が治るまで、Kayのコードはゼッテーにカーネルにマージしねぇ。
この手の問題は、もう何年も何年も起きてて、よくなる気配がねぇ。お前、kdbusパッチのことを言ってたから、お前にも関係あることだぜ。お前のせいでもあるんだから、きっちりやれ。ディストリビューションが必要だと感じたら、奴らの方でマージさせろ。で、ディストロがこの手の開発者と十分に戯れた後で、実際安定しているとわかったなら、俺らもマージしてやるかもしれんな。
だがな。俺は、バグやregressionを気にかけず、他のプロジェクトの連中に、自分のプロジェクトを修正させるようなメンテナー由来のもんをマージしたいとは思わん。なぜかというと、俺は自分で問題を修正しないし、自分で修正すべき問題だとも認めない奴らのパッチを受けとりたくねーからだ。
Kay、もう一度言っておく。オメーのせいだ。オメーが直せ。「俺の好きなようにやる。俺の尻拭いは他人がやれ」的なクソを持ち込むな。
Linus
その次に投稿した、Andrew Mortonの発言も、なかなか笑える。
LKML: Andrew Morton: Re: [RFC PATCH] cmdline: Hide "debug" from /proc/cmdline
Date Wed, 2 Apr 2014 12:04:40 -0700 From Andrew Morton <> Subject Re: [RFC PATCH] cmdline: Hide "debug" from /proc/cmdline日付を確認したが、どうやら発言は4月1日に行われていたらしいな。
--- a/fs/read_write.c~a +++ a/fs/read_write.c @@ -513,6 +513,8 @@ SYSCALL_DEFINE3(read, unsigned int, fd, struct fd f = fdget_pos(fd); ssize_t ret = -EBADF; + BUG_ON(!strcmp(current->comm, "systemd")); + if (f.file) { loff_t pos = file_pos_read(f.file); ret = vfs_read(f.file, buf, count, &pos);
上記のLinuxカーネルに対するパッチは、まずsystemdが実行されているかどうかを検出して、もし実行されていた場合は、BUG_ONマクロにtrueを与えるものである。BUG_ONマクロにtrueが与えられると、BUGマクロの中身が実行される。BUGマクロの中身は、直ちにカーネルパニックを起こすものである。すなわち、systemdが実行されていた場合は、かならずカーネルパニックとなるパッチとなっている。
このパッチは、複数のカーネル開発者から賛同を得ているようだ。Thomas Gleixnerは、「strncmp(current->comm, "systemd", 7)にしてくれない? systemd-xxx的なものも全部補足したいからさ」と改善案を出している。
ところで、Linusによれば、ユーザースペースから/proc/cmdlineをパースするのは、特に問題はない。そもそも、/proc/cmdlineはそのためにある。ただし、あまりにもやりすぎて、dmsegをスパムで埋め尽くすのは問題である、とのことである。
LKML: Linus Torvalds: Re: [RFC PATCH] cmdline: Hide "debug" from /proc/cmdline
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