本の虫

著者:江添亮
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ギークハウス新宿二丁目

最近東京に出てきた筆者は、自らシェアハウスにすみ、またシェアハウス巡りをしている。今回は、ギークハウス新宿二丁目に伺った。

当日は、たまたまギークハウス新宿に飲みによばれたのであった。仕事帰りに向かったのだが、筆者はたまたま、妖怪ハウスに必要なゴミ箱を六箱も抱えていたため、上腕を疲労させながら新宿まで向かった。ギークハウス新宿で飲んでいたところ、場の流れで、ギークハウス新宿二丁目に向かうことになった。

ギークハウス新宿二丁目は、名前通りに、新宿二丁目に存在する。新宿二丁目というのは、ゲイバーが立ち並ぶところであるらしい。

新宿二丁目 - Wikipedia

実際に現地を観察した所、たしかにゲイバーが多かった。

ギークハウス新宿二丁目は、ゲイバーも入っている雑居ビルの上の階に存在した。どうやら、エレベーターが設置されていない雑居ビルの上層階というのは、客が入りづらく、なかなか借り手がいないらしい。そのため、上層階が住居となることは、よくあることなのだそうだ。

さて、ギークハウス新宿二丁目の住人が言うには、私はきわめてもったいない生き方をしているという。せっかく東京に出てきて、機会に恵まれているのに、その機会を存分に活用していないという。

例えばブログだ。私のブログは、広い読者層を獲得する内容ではない。もっと広く浅く書けば、読者が増える。すなわち、私の支持者が増える。私の支持者が増えるということは、それだけ私は強い影響力を行使することができ、様々なことがやりやすくなるであろうということだ。

なるほど、確かに支持者が増え、影響力が高まれば、都合の良いこともあるだろう。しかし、そのために払う犠牲が多すぎる。

まず、広く浅く、一般受けする文章を書く力を向上させると、狭く深く書く能力が失われる。その結果、私はC++の規格の理解をおざなりにして、かわりに、猫画像に適当なキャプションをつけて公開するとか、2chのレスを自作自演してまとめるとか、本の読書感想文を投稿するなどの、よくあるアクセス数だけは稼げるブログのひとつに成り下がってしまうだろう。

広く浅く書く能力だけを鍛えると、いざ、影響力を行使できる状況になったところで、その影響力を行使すべき能力が失われてしまう。

そもそも、影響力とは何なのか。私に盲目的に従う信者の数を言うのか。それはもはや宗教である。私は人間の無謬を信じていない。私は私の周りをイエスマンで固めたいとは思わない。

なおも住人の話は続く。私は妖怪ハウスに住むべきではないという。私は、シェアハウスを運営すべきなのだという。シェアハウスを運営し、利益を上げ、その利益でプログラマーが格安で住めるシェアハウスを提供すべきなのだという。ギークハウス新宿、ギークハウス新宿二丁目、ギークハウス秋葉原の管理人のようになるべきなのだという。そうすれば、自分の才能に気がついていない、誰かからの後押しを必要としているプログラマーの才能を開花させることができるのだという。

たしかに、シェアハウスの運営は興味深い。しかし、今はまだその時ではない。私の理想は吉田寮だが、あの雰囲気を作り出すのは難しい。私がシェアハウスを立ち上げ、運営し、管理し、利益を上げる(あるいは損失をひきうける)ということは、管理者である私に不平等な権力差が発生する。自己主張をしない人間であれば、穏健的な独裁者となることも可能であろうが、私は自己主張をする。したがって、私の管理するシェアハウスは、吉田寮とはならないであろう。

それに、周りにプログラマーが多くいる環境は好ましいが、それだけでは本物のプログラマーにはなれない。本物のプログラマーとなるためには、遅くとも志学までには、プログラミングの価値を理解し、学ぶ意欲を示さなければならない。

私は、プログラミングというのは、直接物理的に対面して教えられることは少ないのではないかと思う。確かに、個々の知識を教えることはできる。しかし、やはりプログラミングの学習というのは、大部分は独学しなければならない。その独学の役に立つのが、文章だ。文章は、いつでも好きなときに読むことができる。

かつまた、ギークハウス新宿二丁目や秋葉原の住環境と家賃は、妖怪ハウスに比べて見劣りするように感じられる。これは、シェアハウスで利益を上げなければならないためである。シェアハウスを住人の自治とし、シェアハウス自体で利益を上げなければ、家賃は安く、一人では到底住めないような広い部屋に住める。

また、この住人の職歴も、私の価値観と反する。この住人は、まずSI屋に雇用されていた。設計に何年もかけ、関係者同士の調整に駆けまわるような仕事だったという。私の価値観では、このようなプロジェクトは極めて非効率的である。これは、住人も認めていた。

この住人が次に就いたのは、転職エージェントだという。転職エージェント・・・これがクセモノだ。

そもそも、エージェント(代理人)というのは、ふさわしい言葉なのだろうか。転職には、雇用者と被雇用者がいるが、いったい、転職エージェントはどちらの代理人なのだろうか。代理人は、一方の代理人であるべきであり、両方の代理人となるべきではない。しかし、どうも日本の転職エージェントは、両方の代理人として振舞っている雰囲気がある。

そもそも、転職エージェントはなぜ必要なのか。この住人が語るところによれば、それは私の価値観に真っ向から反する内容であった。

人を雇いたい企業がいる。希望する人材の条件がある。当然だ。人を雇うのであるから、有能な人材を求めているはずだ。ところが、この条件というのがクセモノだ。

企業が転職エージェントに開示する条件とは、例えば、「32歳以下の人が欲しい」、「男のみ欲しい」、「女のみ欲しい」といった、公にできない条件である。ことによっては、法律に抵触する条件である。こういった公に出来ない、ことによっては違法な条件を転職エージェントに伝える。転職エージェントはその条件を満たす人間のみに企業を紹介する、マッチングを行う。

これは、本質的には何も変わらない。もし、条件が違法であれば、間にプロキシーを一枚かませたところで、違法であることに変わりはない。条件を提示した時点で違法であるからだ。結局、転職エージェントとは、犯罪の片棒を担ぐ仕事であったのか。

そもそも、違法な条件で求人する企業である。すでに法を犯したものに、その余りの法を順守することが望めるだろうか。そのような企業は、たいてい他の法律(例えば労働基準法など)も破っているだろう。そのような企業で働くのは危険である。

かつまた、その企業は、雇用者を能力ではなく、年齢や性別で選別している企業である。すなわち、自分の同僚も同様にして、能力ではなく、単なる年齢や性別のみで選別されて雇用されているに違いない。したがって、同僚は無能である可能性が高い。この点からも、そのような目的で転職エージェントを使う企業で働くのは危険である。

また、住人は言う。転職エージェントは非雇用者にとっても有益である。なぜならば、レジュメを書くにあたって、大抵の人間は、自分を効果的にアピールすることができない。自分の本来の能力を、規程の枚数の紙面で宣伝できない。そのために、プロの指導が必要なのだ。云々

これも、私にはよくわからない。そもそも、プログラマーの能力が、そんなに簡単に紙切れ一枚の上に宣伝できるだろうか。ことプログラミングにおいては、学歴フィルターはそれほど役に立たないし、資格などというものも役に立たない。たとえ、素晴らしい研究をしたものにのみ学位が与えられるだとか、能力を正しく検定して認められる資格があったにせよ、それはその当時のことである。この移り変わりの激しいソフトウェア業界で、5年前、10年前の学位や資格が、状況の変わった今、どれほど役に立つものか。経験年数も、目安にはならない。たとえ無能を5年続けても、経験5年である。

そのようなファンシーなレジュメを追い求めると、手書きの履歴書を評価するような馬鹿げた風潮が流行る。手書きの履歴書を評価項目に加えていいのは、筆耕業者ぐらいなものだ。

こうして、議論は一切の歩み寄りをせず、平行線のまま終わった。