1 対象会社における価値源泉となる技術、ブランド、デザイン、コンテンツ、ノウハウ、営業秘密等(以下「技術等」)の分析・特定

【本項の解説】

 他社とのM&A、技術提携又はライセンス契約締結(以下「M&A等」)にあたって、知的財産に関連する法務的なデューデリジェンス(以下「知財DD」、)をする場合において、対象会社は多種多様な技術等を保有している可能性があるため、それら全てを知財DDの対象とすることは現実的ではない。そこで、調査の対象とする技術等を特定する必要がある。 そのためまず、調査対象を1.対象会社の製品又はサービス(以下「製品等」)、2.対象会社が製品の製造・販売や、サービスの提供に利用しているシステムやソフトウェア(以下「利用システム等」)に分けた上で、製品等及び利用システム等にそれぞれ利用されている技術等(以下「対象技術等」)を特定する。次に、対象技術等の重要性の高低を分析して、知財DDの対象を絞り込む。

1.製品等に関する対象技術等を特定し、重要性の高低を分析する。

【調査項目(1)】

対象会社の事業内容

【調査目的】

対象会社の事業内容(商流、契約関係)を分析して、対象会社における価値源泉となる製品等を特定・抽出する。

【調査資料例】

【調査項目(2)】

M&A等の目的達成のために必要となる製品等(以下「対象製品等」)の特定 ### 【調査目的】 対象会社の各製品等の現在及び将来の収益予測の比較・分析等によって対象会社事業における各製品等の重要性のランク付けを行う等の方法により、主として調査対象とすべき製品等を特定する。 ### 【調査資料例】 * 有価証券報告書 * 税務申告書 * 決算書 * 勘定科目内訳明細書 * 過去数事業年度の製品毎の売上一覧 * 年間予算 * 事業計画 * 開発中の製品一覧

【調査項目(3)】

対象製品等に関連する対象技術等の特定 ### 【調査目的】 対象製品等が具体的にいかなる対象技術等で構成されているかを分析して、対象製品等に含まれる対象技術等を特定する。 ### 【調査資料例】 * 製品等と対象技術等の対応関係一覧 * 製品等カタログ、パンフレット、取扱説明書 * 対象会社保有知的財産一覧

2.利用システム等に関する対象技術等を特定し、重要性の高低を分析する。

【調査項目(1)】

対象会社の事業内容 ### 【調査目的】 対象会社の事業内容(商流、契約関係)を分析して、対象会社における価値源泉となる製品等を特定・抽出する。 ### 【調査資料例】 * ホームページ * 企業情報データベース * 製品等カタログ、パンフレット、取扱説明書 * 有価証券報告書 * 税務申告書 * 決算書 * 勘定科目内訳明細書 * 年間予算 * 事業計画 * 開発中の製品一覧

【調査項目(2)】

対象会社の対象製品等の特定 ### 【調査目的】 対象会社の各製品等の現在及び将来の収益予測を比較・分析し、対象会社事業における各製品等の重要性のランク付けを行う。 ### 【調査資料例】 * 有価証券報告書 * 税務申告書 * 決算書 * 勘定科目内訳明細書 * 過去数事業年度の製品毎の売上一覧 * 年間予算 * 事業計画 * 開発中の製品一覧

【調査項目(3)】

製品等又は対象製品等の製造、販売、提供に利用するシステムやソフトウェアの特定 ### 【調査目的】 製品等又は対象製品等の製造、販売、提供に具体的にいかなるシステムやソフトウェアを用いているかを特定する。 ### 【調査資料例】 * 製品等カタログ、パンフレット、取扱説明書 * 対象会社保有知的財産一覧 * システム構成図

【調査項目(4)】

利用システム等の構成の分析 ### 【調査目的】 利用システム等が具体的にいかなる内容かを分析して、それらに含まれる知的財産を特定する。 ### 【調査資料例】 * 利用システム等と対象技術等の対応関係一覧 * 製品等カタログ、パンフレット、取扱説明書 * 対象会社保有知的財産一覧 * システム構成図

II.対象技術等毎の、対象会社における利用可能性・利用可能範囲の調査

【本項の解説】

対象会社が利用している対象技術等が、 実際に対象会社に帰属しており、又は第三者から必要十分なライセンスを受けており、M&A等の後も従前通り利用可能であることは、M&A等の実施の可否やバリュエーションを判断する上でも重要な要素であり、場合によってはそれ自体がM&A等の目的の場合もある。 そのためまず、1.対象技術等の帰属主体が対象会社なのか第三者なのかを区別する。その上で、2.対象会社帰属又は第三者帰属(共有含む.以下同じ。)の対象技術等について、M&A等の後もM&A等の目的達成に必要な範囲で利用可能かどうか、及び3.第三者帰属の対象技術等について特に確認が必要な事項について、対象技術等の種類毎に調査する。 これらの調査に基づき、M&A等の実施に支障が無いかどうか、支障がある場合はどのような対策をすべきかを判断する。 なお、対象技術等が特許等の法的権利化されている場合、理論上は、その有効性の調査は非常に有益である。しかし、網羅的な調査には膨大な時間と費用を要する場合が多いため、特に知財DD実務上は調査範囲を限定する必要性が高い場合が多い。また、調査範囲を限定したとしても、特許要件の進歩性等、その判断には多大な時間・費用を要し困難な場合も多いため、そもそも有効性の調査については、それを行うかどうか、取引規模に応じてスコープを予め設定しておくべきである。

1.対象技術等が、自社に帰属しているか、第三者に帰属し対象会社がライセンスを受けているかの調査

【調査項目】

  1. 製品等の開発方法が、自社開発、共同開発、外注のいずれか
  2. 対象技術等の発明者、考案者、創作者
  3. 対象技術等の共有者
  4. 自社が利用できる根拠となる契約関係
  5. 職務発明・職務著作の各規程の存在、履践状況(対価支払いの有無等) ### 【調査目的】 対象技術等が自社に単独で帰属しているか、共有又は第三者に帰属しているかを確認するため。 ### 【調査資料例】

(自社開発の場合)

(外注・共同開発の場合)

(譲渡を受けた場合)

(ライセンスを受けた場合)

2.自社帰属又は第三者帰属の対象技術等の調査

(1)技術(特許権、実用新案権)に関する調査

a. 対象会社が利用している技術について法的保護を受けるために必要な手続の遵守状況の調査 ### 【調査項目】 1. 出願の有無 2. 出願公開の状況 3. 登録の状況 4. 出願国 ### 【調査目的】 対象会社が利用している技術が法的に保護されているか否か、今後法的に保護される可能性があるか否か、及び保護の地域的範囲を確認するため。 ### 【調査資料例】 * 対象会社保有知的財産一覧 * 対象会社が利用している知的財産一覧 * 出願書類 * 登録原簿 * 特許庁特許情報プラットフォーム * 各国特許庁データベース   b.(出願済み・権利化前の場合)権利化の可能性の調査 ### 【調査項目】 新規性・進歩性の有無 ### 【調査目的】 出願中の技術等が今後法的に保護される可能性があるか否かを確認するため。 ### 【調査資料例】 * 製品等と対象技術等の対応関係一覧 * 対象会社保有知的財産一覧 * 対象会社が利用している知的財産一覧 * 出願書類 * 特許庁特許情報プラットフォーム * 各国特許庁データベース * 先行技術

c.(権利化されている場合)権利の有効性の調査 ### 【調査項目】 ・出願ステータスに関する項目 1. 審査請求の有無及び期限 2. 審査手続における補正、訂正、拒絶査定 ・登録ステータスに関する項目 1. 登録料が支払われていること 2. 権利の存続期間 3. 異議申立、無効審判請求の有無・内容 4. 無効理由の有無 ### 【調査目的】 第三者からの権利無効主張の可能性の有無及び無効になる可能性を確認するため ### 【調査資料例】 * 先行技術 * 出願書類 * 登録原簿 * 実用新案技術評価書

d.(権利化されている場合)権利範囲の調査

【調査項目】

特許発明(考案)の技術的範囲 ### 【調査目的】 製品等が保護される範囲、及び第三者からの権利侵害主張の可能性の有無を確認する。 ### 【調査資料例】 * 出願書類 * 特許明細書、実用新案明細書

e. 技術に対する、担保設定及び第三者へのライセンスの設定の有無及びその内容の調査 ### 【調査項目】 1. 担保設定の有無及び内容 2. 通常実施権又は専用実施権の有無及び内容 3. 契約上の独占的実施権などの対象会社による技術の利用を制限する条項の有無及び内容 ### 【調査目的】 対象会社が当該技術を利用する際に、障害や負担があるかどうかを確認するため。 ### 【調査資料例】 * 登録原簿 * 担保設定に関する契約書 - 担保権設定契約書 - 質権設定契約書 - 譲渡担保権設定契約書 - 等 * ライセンス・アウトに関する契約書 - ライセンス契約書 - クロスライセンス契約書 - 実施許諾契約書 - 等 * ライセンス契約以外の知的財産関連契約の契約書 - 業務委託契約書 - 技術顧問契約書 - 技術提携契約書 - OEM契約書 - 製作委託契約書 - 研究委託契約書 - 共同開発契約書 - 等

f. 技術のライセンス・アウトの有無及びその内容 ### 【調査項目】 1. ライセンス料の計算方法、継続性 2. 技術流出への対応策 3. 独占禁止法違反の有無 ### 【調査目的】 ライセンス・アウトによるライセンス料が収益の柱となっている場合において、ライセンス料収入の継続性が担保されていることを確認し、他方でライセンス・アウトによる技術流出に備えた契約上の手当てがされていることを確認する。ただし、契約上の手当てには独占禁止法による制限があるため留意する。 ### 【調査資料例】 * ライセンス料一覧 * ライセンス・アウトに関する契約書 - ライセンス契約書 - クロスライセンス契約書 - 実施許諾契約書 - 等 * 秘密保持契約書

  1. グローバル展開 ### 【調査項目】 出願国分析(海外出願・登録) ### 【調査目的】 出願している国を分析することでグローバル展開の程度の理解が可能 ### 【調査資料例】

a. 対象会社が利用しているブランドについて法的保護を受けるために必要な手続の遵守状況の調査 ### 【調査項目】 1. 出願の有無 2. 出願公開の状況 3. 登録(防護標章登録を含む)の状況 4. 出願国 ### 【調査目的】 対象会社が利用しているブランドが法的に保護されているか否か、今後法的に保護される可能性があるか否か、及び保護の地域的範囲を確認するため。 ### 【調査資料例】 * 対象会社保有知的財産一覧 * 対象会社が利用している知的財産一覧 * 出願書類 * 商標登録原簿 * 特許庁特許情報プラットフォーム * 各国特許庁データベース   b.(権利化されている場合)権利の有効性の調査 ### 【調査項目】 ・出願ステータスに関する項目 1. 審査手続における補正、訂正、拒絶査定 ・登録ステータスに関する項目 1. 登録料が支払われていること 2. 権利の存続期間 3. 異議申立・審判請求(無効、不使用取消、不正使用取消)の有無・内容 4. 無効理由の有無 ### 【調査目的】 第三者からの権利無効主張の可能性の有無及び無効になる可能性を確認するため ### 【調査資料例】 * 出願書類 * 商標登録原簿 * 特許庁特許情報プラットフォーム * 各国特許庁データベース   c.(権利化されている場合)権利範囲の調査 ### 【調査項目】 1. 商標の指定商品・指定役務 2. 商標の類似の範囲 3. 指定商品又は指定役務の類似の範囲 ### 【調査目的】 ブランドが保護される範囲、及び第三者からの権利侵害主張の可能性の有無を確認する。 ### 【調査資料例】 * 出願書類 * 商標公報 * 商標登録原簿

d.(権利化されている場合)使用実態の調査 ### 【調査項目】 対象会社(ライセンスしている場合はライセンス先含む)におけるブランドの使用状況 ### 【調査目的】 ブランドの実際の使用状況を調査することで、不使用取消による商標登録取消がなされる可能性の有無を確認する。 ### 【調査資料例】 * ブランドと製品等の対応関係一覧 * ブランド毎の売上一覧 * 製品等カタログ、パンフレット

e. ブランドに対する、担保設定及び第三者へのライセンスの設定の有無及びその内容の調査 ### 【調査項目】 1. 担保設定の有無及び内容 2. 通常使用権又は専用使用権の有無及び内容 3. 契約上の独占的使用権などの対象会社によるブランドの利用を制限する条項の有無及び内容 ### 【調査目的】 対象会社がブランドを利用する際に、障害や負担があるかどうかを確認するため。 ### 【調査資料例】 * 商標登録原簿 * 担保設定に関する契約書 - 担保権設定契約書 - 質権設定契約書 - 譲渡担保権設定契約書 - 等 * ライセンス・アウトに関する契約書 - ライセンス契約書 - 商標使用許諾契約書 - 等 * ライセンス契約以外の知的財産関連契約の契約書 - 業務委託契約書 - OEM契約書 - 製作委託契約書 - 等

f. ブランドのライセンス・アウトの有無及びその内容 ### 【調査項目】 1. ライセンス料の計算方法、継続性 ### 【調査目的】 ライセンス・アウトによるライセンス料が収益の柱となっている場合において、ライセンス料収入の継続性が担保されていることを確認する。 ### 【調査資料例】 * ライセンス料一覧 * ライセンス・アウトに関する契約書 - ライセンス契約書 - 商標使用許諾契約書 - 等

  1. グローバル展開 ### 【調査項目】 出願国分析(海外出願・登録) ### 【調査目的】 出願している国を分析することでグローバル展開の程度の理解が可能 ### 【調査資料例】

(3)デザイン(意匠権)に関する調査

a. 対象会社が利用しているデザインについて法的保護を受けるために必要な手続の遵守状況の調査 ### 【調査項目】 1. 出願の有無 2. 出願公開の状況 3. 登録の状況 4. 関連意匠の有無 5. 出願国 ### 【調査目的】 対象会社が利用しているデザインが法的に保護されているか否か、今後法的に保護される可能性があるか否か、及び保護の地域的範囲を確認するため。 ### 【調査資料例】 * 対象会社保有知的財産一覧 * 対象会社が利用している知的財産一覧 * 出願書類 * 意匠登録原簿 * 特許庁特許情報プラットフォーム * 各国特許庁データベース   b.(権利化されている場合)権利の有効性の調査 ### 【調査項目】 * 出願ステータスに関する項目 1. 審査手続における補正、訂正、拒絶査定 * 登録ステータスに関する項目 1. 登録料が支払われていること 2. 権利の存続期間 3. 無効審判請求の有無・内容 4. 無効理由の有無 ### 【調査目的】 第三者からの権利無効主張の可能性の有無及び無効になる可能性を確認するため ### 【調査資料例】 * 出願書類 * 意匠登録原簿 * 特許庁特許情報プラットフォーム   c.(権利化されている場合)権利範囲の調査 ### 【調査項目】 1. 意匠登録の対象物品 2. 意匠の類似の範囲 3. 物品の類似の範囲 ### 【調査目的】 デザインが保護される範囲、及び第三者からの権利侵害主張の可能性の有無を確認する。 ### 【調査資料例】 * 出願書類 * 意匠公報 * 意匠登録原簿

d.デザインに対する、担保設定及び第三者へのライセンスの設定の有無及びその内容の調査

【調査項目】

  1. 担保設定の有無及び内容
  2. 通常実施権又は専用実施権の有無及び内容
  3. 契約上の独占的実施権などの対象会社によるデザインの利用を制限する条項の有無及び内容 ### 【調査目的】 対象会社がデザインを利用する際に、障害や負担があるかどうかを確認するため。 ### 【調査資料例】

e.デザインのライセンス・アウトの有無及びその内容 ### 【調査項目】 1. ライセンス料の計算方法、継続性 2. 独占禁止法違反の有無 ### 【調査目的】 ライセンス・アウトによるライセンス料が収益の柱となっている場合において、ライセンス料収入の継続性が担保されていることを確認する。ただし、契約上の手当てには独占禁止法による制限がある場合もあるため留意する。 ### 【調査資料例】 * ライセンス料一覧 * ライセンス・アウトに関する契約書 - ライセンス契約書 - 実施許諾契約書 - 等

f.グローバル展開 ### 【調査項目】 出願国分析(海外出願・登録) ### 【調査目的】 出願している国を分析することでグローバル展開の程度の理解が可能 ### 【調査資料例】 * 出願書類 * 登録原簿 * 各国特許庁データベース

(4)ソフトウェア又はコンテンツ(著作権)に関する調査

a. 対象会社が利用しているソフトウェア、コンテンツその他の著作物(以下「対象著作物」)について法的保護を受けるために必要な手続の遵守状況の調査 ### 【調査項目】 登録の状況 ### 【調査目的】 対象著作物が法的に保護されているか否か、及び今後法的に保護される可能性があるか否かを確認するため。 ただし、著作権の場合、登録は権利発生要件では無く、対抗要件(移転登録、出版権設定登録の場合)、又は法律上の推定効(実名登録、第一発行年月日登録、プログラムの創作年月日登録の場合)が生じるに過ぎず、また、あまり利用されていないという実態もあるため、産業財産権(特許権、実用新案権、意匠権及び商標権)に比して登録有無を調査する必要性は非常に低い。逆に言えば、登録を手がかりに調査を行うことが難しく、また、著作物には言語、音楽、美術、建築、映画、写真及びプログラムなどの多様なものが含まれる上、二次的著作物、編集著作物及びデータベース著作物などの特殊なものが含まれることから、そもそも対象著作物を特定すること自体に困難を伴う点に注意すべきである。 ### 【調査資料例】 * 対象会社保有知的財産一覧 * 対象会社が利用している知的財産一覧 * 文化庁著作権等登録状況検索システム

b.権利の有効性の調査 ### 【調査項目】 当該著作物の著作権の保護期間 ### 【調査目的】 著作権が有効に存続しているかどうかを確認する。 ### 【調査資料例】 * 対象著作物の現物 * 国立国会図書館デジタルコレクション * 文化庁著作権等登録状況検索システム * 文化人名録(著作権台帳)

c.権利範囲の調査 ### 【調査項目】 1. 対象著作物の内容 2. 著作物の類似の範囲 ### 【調査目的】 対象著作物が保護される範囲、及び第三者からの権利侵害主張の可能性の有無を確認する。 ### 【調査資料例】 * 対象著作物の現物

d. 対象著作物に対する、担保設定及び第三者へのライセンスの設定の有無及びその内容の調査 ### 【調査項目】 1. 担保設定の有無及び内容 2. 非独占的又は独占的利用許諾の有無及び内容 3. 契約上の独占権などの対象会社による対象著作物の利用を制限する条項の有無及び内容 ### 【調査目的】 対象会社が対象著作物を利用する際に、障害や負担があるかどうかを確認するため。 ### 【調査資料例】 * 担保設定に関する契約書 - 担保権設定契約書 - 質権設定契約書 - 譲渡担保権設定契約書 - 等 * ライセンス・アウトに関する契約書 - ライセンス契約書 - 著作物利用許諾契約書 - 等 * ライセンス契約以外の知的財産関連契約の契約書 - 著作権契約書 - 業務委託契約書 - 製作委託契約書 - 製作委員会契約書 - 等

e. 対象著作物のライセンス・アウトの有無及びその内容 ### 【調査項目】 1. ライセンス料の計算方法、継続性 2. 独占禁止法違反の有無 ### 【調査目的】 ライセンス・アウトによるライセンス料が収益の柱となっている場合において、ライセンス料収入の継続性が担保されていることを確認する。ただし、契約上の手当てには独占禁止法による制限がある場合もあるため留意する。 ### 【調査資料例】 * ライセンス料一覧 * ライセンス・アウトに関する契約書 - ライセンス契約書 - 著作物利用許諾契約書 - 等

f. 対象会社が第三者から著作権を譲り受けている場合に特に必要となる調査 ### 【調査項目】 1. 著作権譲渡契約に、著作権法第27条、第28条に定める権利の譲渡が特掲されているか 2. 著作者人格権不行使特約が規定されているか ### 【調査目的】 著作権法第27条及び第28条に定める権利が譲渡されるためには、契約等において特掲されている必要がある(著作権法第61条第2項、「全ての著作権を譲渡する」という文言では足りない。)。また、著作者人格権は譲渡不能であるため、対象会社が当該著作物を自由に利用するためには人格権不行使の特約が規定されていることが必要である。よって、対象会社が対象著作物を自由に利用できることを確認するために、これらの条項が規定されているかを確認する。 ### 【調査資料例】 * 著作権譲渡契約書

(5)営業秘密・ノウハウに関する調査 a. 営業秘密該当性の調査 ### 【調査項目】 1. 秘密として管理されているか 2. 有用な情報であるか 3. 公に知られていないか ### 【調査目的】 営業秘密又はノウハウは、秘密管理性・有用性・非公知性といった要件を満たした不正競争防止法上の「営業秘密」に該当する場合、法的保護を受けるから、これらの要件を満たすかどうかを確認するため。 ※必ずしも不競法の「営業秘密」に該当しなくとも、営業秘密又はノウハウとして価値を有する場合もある。ただ、そのような場合であっても、秘密に管理されていることにその優位性があることに変わりは無いから、いずれにせよ不競法の各要件の観点から調査・分析することは有益である。 ### 【調査資料例】 * 組織図 * 対象製品等の研究開発に従事する役職員の一覧及び入退社履歴 * 秘密管理規程 * 就業規則 * 入社時、退社時に役職員から徴収している秘密保持誓約書 * 共同研究先、取引先との秘密保持契約書、共同研究開発契約書

b. 営業秘密・ノウハウの第三者へのライセンスの設定の有無及びその内容の調査 ### 【調査項目】 1. ライセンスの有無及び内容 2. 契約上の独占的ライセンスなどの対象会社による営業秘密・ノウハウの利用を制限する条項の有無及び内容 3. 契約上の秘密保持の内容・方法 ### 【調査目的】 * 対象会社が営業秘密・ノウハウを利用する際に、障害や負担があるかどうかを確認するため。 * 営業秘密漏洩のリスクの有無及びその可能性の大小を確認するため。 ### 【調査資料例】 * ライセンス・アウトに関する契約書 - ライセンス契約書 - 営業秘密使用許諾契約書 - 等 * ライセンス契約以外の知的財産関連契約の契約書 - 業務委託契約書 - OEM契約書 - 製作委託契約書 - 等

3.第三者帰属(共有含む)の技術等の調査

(1)技術(特許権、実用新案権)に関する調査

a. 製品等に利用されている技術を適法に利用できる根拠の調査 ### 【調査項目(1)】 ライセンス契約その他第三者の技術の実施許諾に関する契約、合意、その他の定め(以下「技術ライセンス契約等」)の有無 ### 【調査目的】 対象会社による当該技術のこれまでの利用が適法であること、及び製品等への今後の利用が可能であることを確認するため。 ### 【調査資料例】 * ライセンス契約書 * クロスライセンス契約書 * 業務委託契約書 * 技術顧問契約書 * 技術提携契約書 * OEM契約書 * 製作委託契約書 * 研究委託契約書 * 共同開発契約書 * 技術移転契約書

【調査項目(2)】

技術ライセンス契約等における以下の各事項。 1. ライセンス、サブライセンスの別 原権利者から直接ライセンスを受けているのか、サブライセンス等間接的なライセンスなのか 2. 許諾の対象製品 これまでの及び今後予定されている製品等が、許諾の対象に含まれているかどうか 3. 許諾の対象者 対象会社以外に技術を利用する主体(対象会社の子会社、関連会社、グループ会社等)がいる場合において、それらの会社も許諾の対象者として契約上カバーされているかどうか、及びグループ外の外注先などの第三者に対するサブライセンスは可能か 4. 許諾条件 * 独占・非独占の別 * 目的とする実施方法が含まれているか。 * 等 5. 許諾地域 これまでの及び今後予定されている製品等の製造・販売地域が含まれているかどうか 6. 許諾期間 今後予定されている製品等の製造・販売に十分な期間があるか 7. 許諾料 許諾料の額の確認及びその妥当性、最低保証額の有無・金額・未払時のペナルティ 1. CoC条項 M&A等によって許諾が消滅しないかどうか 2. 解除条項 許諾が消滅する可能性の有無の確認 3. 改良発明 対象会社が行った改良発明の権利は対象会社に帰属するか

【調査目的】

対象会社による当該技術のこれまでの利用が適法であること、及び製品等への今後の利用が可能であることを確認するため。 ### 【調査資料例】 * ライセンス契約書 * クロスライセンス契約書 * 業務委託契約書 * 技術顧問契約書 * 技術提携契約書 * OEM契約書 * 製作委託契約書 * 研究委託契約書 * 共同開発契約書 * 技術移転契約書 * (サブライセンスの場合)サブライセンサーとライセンサーの上記各契約書

(2)ブランド(商標権)に関する調査 a. 製品等に利用されているブランドを適法に利用できる根拠の調査 ### 【調査項目(1)】 ライセンス契約その他第三者のブランドの使用に関する契約、合意、その他の定め(以下「ブランドライセンス契約等」)の有無 ### 【調査目的】 対象会社による当該ブランドのこれまでの利用が適法であること、及び製品等への今後の利用が可能であることを確認するため。 ### 【調査資料例】 ライセンス契約書 業務委託契約書 * OEM契約書 * 製作委託契約書 等

【調査項目(2)】

ブランドライセンス契約等における以下の各事項。 1. ライセンス、サブライセンスの別 原権利者から直接ライセンスを受けているのか、サブライセンス等間接的なライセンスなのか 2. 許諾の対象製品 これまでの及び今後予定されている製品等が、許諾の対象に含まれているかどうか 3. 許諾の対象者 対象会社以外にブランドを利用する主体(対象会社の子会社、関連会社、グループ会社等)がいる場合において、それらの会社も許諾の対象者として契約上カバーされているかどうか、及びグループ外の外注先などの第三者に対するサブライセンスは可能か 4. 許諾条件 * 独占・非独占の別 * 目的とする使用方法が含まれているか。 * 等 5. 許諾地域 これまでの及び今後予定されている製品等の製造・販売地域が含まれているかどうか 6. 許諾期間 今後予定されている製品等の製造・販売に十分な期間があるか 7. 許諾料 許諾料の額の確認及びその妥当性、最低保証額の有無・金額・未払時のペナルティ 8. CoC条項 M&A等によって許諾が消滅しないかどうか 9. 解除条項 許諾が消滅する可能性の有無の確認 ### 【調査目的】 対象会社による当該ブランドのこれまでの利用が適法であること、及び製品等への今後の利用が可能であることを確認するため。 ### 【調査資料例】 * ライセンス契約書 * 業務委託契約書 * OEM契約書 * 製作委託契約書 * 等

(3)デザイン(意匠権)に関する調査 a. 製品等に利用されているデザインを適法に利用できる根拠の調査 ### 【調査項目(1)】 ライセンス契約その他第三者のデザインの使用に関する契約、合意、その他の定め(以下「デザインライセンス契約等」)の有無 ### 【調査目的】 対象会社による当該デザインのこれまでの利用が適法であること、及び製品等への今後の利用が可能であることを確認するため。 ### 【調査資料例】 * ライセンス契約書 * 業務委託契約書 * OEM契約書 * 製作委託契約書 * 等

【調査項目(2)】

デザインライセンス契約等における以下の各事項。 1. ライセンス、サブライセンスの別 原権利者から直接ライセンスを受けているのか、サブライセンス等間接的なライセンスなのか 2. 許諾の対象製品 これまでの及び今後予定されている製品等が、許諾の対象に含まれているかどうか 3. 許諾の対象者 対象会社以外にデザインを利用する主体(対象会社の子会社、関連会社、グループ会社等)がいる場合において、それらの会社も許諾の対象者として契約上カバーされているかどうか、及びグループ外の外注先などの第三者に対するサブライセンスは可能か 4. 許諾条件 ・独占・非独占の別 ・目的とする使用方法が含まれているか。 等 5. 許諾地域 これまでの及び今後予定されている製品等の製造・販売地域が含まれているかどうか 6. 許諾期間 今後予定されている製品等の製造・販売に十分な期間があるか 7. 許諾料 許諾料の額の確認及びその妥当性、最低保証額の有無・金額・未払時のペナルティ 8. CoC条項 M&A等によって許諾が消滅しないかどうか 9. 解除条項 許諾が消滅する可能性の有無の確認 ### 【調査目的】 対象会社による当該デザインのこれまでの利用が適法であること、及び製品等への今後の利用が可能であることを確認するため。 ### 【調査資料例】 * ライセンス契約書 * 業務委託契約書 * OEM契約書 * 製作委託契約書 * 等

(4)ソフトウェア又はコンテンツ(著作権)に関する調査 a. 製品等に利用されているソフトウェア(オープンソースソフトウェアを含む)、コンテンツ又はその他の著作物(以下「第三者著作物」)を適法に利用できる根拠の調査 ### 【調査項目(1)】 ライセンス契約その他第三者著作物の利用に関する契約、合意、その他の定め(以下「著作物ライセンス契約等」)の有無 ### 【調査目的】 対象会社による当該第三者著作物のこれまでの利用が適法であること、及び製品等への今後の利用が可能であることを確認するため。 ### 【調査資料例】 * ライセンス契約書 * 業務委託契約書 * OEM契約書 * 製作委託契約書 * オープンソースソフトウェア規約 * 等

【調査項目(2)】

著作物ライセンス契約等における以下の各事項。 1. ライセンス、サブライセンスの別 原権利者から直接ライセンスを受けているのか、サブライセンス等間接的なライセンスなのか 2. 許諾の対象製品 これまでの及び今後予定されている製品等が、許諾の対象に含まれているかどうか 3. 許諾の対象者 対象会社以外に第三者著作物を利用する主体(対象会社の子会社、関連会社、グループ会社等)がいる場合において、それらの会社も許諾の対象者として契約上カバーされているかどうか、及びグループ外の外注先などの第三者に対するサブライセンスは可能か 4. 許諾条件 ・独占・非独占の別 ・目的とする使用方法が含まれているか。 等 5. 許諾地域 これまでの及び今後予定されている製品等の製造・販売地域が含まれているかどうか 6. 許諾期間 今後予定されている製品等の製造・販売に十分な期間があるか 7. 許諾料 許諾料の額の確認及びその妥当性、最低保証額の有無・金額・未払時のペナルティ 8. CoC条項 M&A等によって許諾が消滅しないかどうか 9. 解除条項 許諾が消滅する可能性の有無の確認 10. 二次的著作物 対象会社が創作した二次的著作物の権利は対象会社に帰属するか ### 【調査目的】 対象会社による当該第三者著作物のこれまでの利用が適法であること、及び製品等への今後の利用が可能であることを確認するため。 ### 【調査資料例】 * ライセンス契約書 * 業務委託契約書 * OEM契約書 * 製作委託契約書 * オープンソースソフトウェア規約 * 等

【調査項目(3)】

著作物ライセンス契約等無く製品等に利用されている第三者著作物の利用の適法性(引用(著作権法第32条)該当性、複製(著作権法第21条)非該当性等) ### 【調査目的】  対象会社による当該第三者著作物のこれまでの利用が適法であること、及び製品等への今後の利用が可能であることを確認するため。 ### 【調査資料例】 * 製品等 * 製品等に用いられている著作物素材、製作過程における各種資料

(5)営業秘密・ノウハウに関する調査 a. 製品等に利用されている営業秘密・ノウハウを適法に利用できる根拠の調査 ### 【調査項目(1)】 ライセンス契約その他第三者の営業秘密・ノウハウの利用に関する契約、合意、その他の定め(以下「ノウハウライセンス契約等」)の有無 ### 【調査目的】 対象会社による当該営業秘密・ノウハウのこれまでの利用が適法であること、及び製品等への今後の利用が可能であることを確認するため。 ### 【調査資料例】 * ライセンス契約書 * 業務委託契約書 * OEM契約書 * 製作委託契約書 * 秘密保持契約書 * 等

【調査項目(2)】

ノウハウライセンス契約等における以下の各事項。 1. ライセンス、サブライセンスの別 原権利者から直接ライセンスを受けているのか、サブライセンス等間接的なライセンスなのか 2. 許諾の対象製品 これまでの及び今後予定されている製品等が、許諾の対象に含まれているかどうか 3. 許諾の対象者 対象会社以外に営業秘密・ノウハウを利用する主体(対象会社の子会社、関連会社、グループ会社等)がいる場合において、それらの会社も許諾の対象者として契約上カバーされているかどうか、及びグループ外の外注先などの第三者に対するサブライセンスは可能か 4. 許諾条件 ・独占・非独占の別 ・目的とする使用方法が含まれているか。 等 5. 許諾地域 これまでの及び今後予定されている製品等の製造・販売地域が含まれているかどうか 6. 許諾期間 今後予定されている製品等の製造・販売に十分な期間があるか 7. 許諾料 許諾料の額の確認及びその妥当性、最低保証額の有無・金額・未払時のペナルティ 8. CoC条項 M&A等によって許諾が消滅しないかどうか 9. 解除条項 許諾が消滅する可能性の有無の確認 ### 【調査目的】 対象会社による当該営業秘密・ノウハウのこれまでの利用が適法であること、及び製品等への今後の利用が可能であることを確認するため。 ### 【調査資料例】 * ライセンス契約書 * 業務委託契約書 * OEM契約書 * 製作委託契約書 * 秘密保持契約書 * 等

Ⅲ.対象会社における知的財産関連紛争の調査

【本項の解説】

 対象会社が現に抱えている訴訟及び裁判外紛争の調査は、一般的なDDにおいて通常行われるものであり、知的財産関連の紛争においてもその調査の重要性に変わりは無い。 ただ、知的財産紛争特有の問題として、特に海外(特に米国)における、いわゆるパテントトロールとの紛争がある。特に米国においては、どの技術分野においても一定数のパテントトロールが存在する可能性があり、対象会社が米国で事業を行っている場合、パテントトロールからの警告や訴訟提起を多数受けていることも珍しくない。 パテントトロールは多くの場合、和解金狙いであり、経済合理性のみで動くことから、パテントトロールとの紛争については、事業会社間の一般的な紛争とは違った基準でその内容や帰趨を分析する必要がある。また、分野によっては極めて多数の訴訟が提起されている可能性があるため、時間が限られている知財DDの場面においては、そもそもそれらを全て検討することは有益では無い。したがって、単に開示を受けた訴訟資料を机上で調査するだけでは無く、その紛争の実態を踏まえて調査することが要求される。

1.訴訟案件の調査

【調査項目】

①訴訟当事者
②対象製品等
③訴額
④請求内容
⑤権利が無効になる可能性(産業財産権の場合)
⑥対象会社の主張内容及び相手方の反論内容の概要
⑦訴訟終結の見込み及び結果の見込み
⑧訴訟終結までの見込み期間

【調査目的】

顕在化している紛争案件による権利の有効性への影響、製品等の差止のリスク、対象会社が被る損害賠償リスクの確認。

【調査資料例】

・訴訟一覧
・訴訟記録
・訴訟対応についての専門家意見書、打ち合わせメモ、取締役会議事録その他の内部資料

2.訴訟外紛争案件の調査

【調査項目】

①紛争当事者
②対象製品等
③紛争金額又はその見込額
④請求内容
⑤権利が無効になる可能性(産業財産権の場合)
⑥対象会社の主張内容及び相手方の反論内容の概要
⑦紛争終結の見込み及び結果の見込み
⑧紛争終結までの見込み期間
⑨訴訟移行の可能性

【調査目的】

訴訟には至っていないが将来訴訟となる可能性のある潜在的な紛争案件による権利の有効性への影響、製品等の差止のリスク、対象会社が被る損害賠償リスクの確認。

【調査資料例】

・紛争一覧
・警告書、請求書などの紛争関連資料
・紛争対応についての専門家意見書、打ち合わせメモ、取締役会議事録その他の内部資料

3.過去の紛争(訴訟、訴訟外)の調査

【調査項目】

①紛争当事者
②対象製品等
③和解金額
④和解条件
(具体的調査項目は、各技術等に関する前述「担保設定及び第三者へのライセンスの設定の有無及びその内容の調査」「ライセンス・アウトの有無及びその内容」「(技術・ブランド・デザイン・著作物)ライセンス契約等における以下の各事項」参照。)

【調査目的】

過去に終結した紛争案件が対象会社に与える影響の確認。

【調査資料例】

・紛争一覧
・判決
・和解調書
・和解契約 

4.第三者の権利を侵害するリスクの調査(いわゆるFTO調査)

【本項の解説】

 M&A等の後に、対象会社の製品等を製造・販売し、又は対象会社が有している技術等を利用して新たな製品等を開発・製造・販売していくにあたって、第三者の権利を侵害する等の支障が無いかどうかを調査しておくことは重要である。そのような調査はFreedom to Operate調査などと呼ばれるものであり、製品等の分野によっては比較的一般的に行われている調査である。  ただ、当該調査はそれ自体のみで多くの時間と費用を要する場合が多いため、一般的に調査期間が非常に限られているM&A等の取引においては、当該調査が十分に行われることはほぼなく、行わない場合も多く、前記Ⅲの対象会社が認識している知的財産関連紛争の調査に止めることが多い。行う場合であっても、現に第三者の権利を侵害していないかどうかや、侵害する可能性が顕著に存在するかどうかを調査する程度であることがほとんどである。  Freedom to Operate調査の重要性に鑑みて本項を設けるが、ここでは、内容的にはいわゆるフルサイズのFreedom to Operate調査ではなく、知財DDの実務で一般的に行われている、あるいは行うことが現実的に可能と思われる調査を挙げるに止める。ただし、下記1.の調査は、これが行えればリスク調査としては万全ではあるものの、知財DDの中では現実的には難しい場合が多い。そこで、1.に比して容易に行える2.3.の調査によって、網羅的では無いものの、現実的な紛争リスクを把握することを目的とする。

1.対象会社の技術等と同技術領域・同事業領域に属する他社特許・技術等の調査

【調査項目(1)】

先行技術調査

【調査目的】

対象会社の技術等と同技術領域・同事業領域に属する他社特許等・技術の有無を先行技術調査の内容を確認し、先行技術が存在するかどうかのチェックを行う。

【調査資料例】

・対象会社製品等カタログ、パンフレット、取扱説明書
・対象会社の開発中の製品一覧
・対象会社保有知的財産一覧
・対象会社出願予定書類
・対象会社が過去に行った先行技術調査資料
・先行技術文献(特許文献、非特許文献)
・特許庁特許情報プラットフォーム
・SDIなどのウォッチングのレポート(対象会社が実施した場合)

【調査項目(2)】

権利の有効性調査

【調査目的】

他社特許等・技術が存在し、既に権利化されている場合、その権利の有効性を調査し、権利の有効性を確認する。

【調査資料例】

・先行技術文献(特許文献、非特許文献)
・対象特許の登録原本等
・対象特許の明細書等
・対象会社が過去に行った有効性調査資料
・特許庁特許情報プラットフォーム

【調査項目(3)】

無効化資料調査

【調査目的】

権利侵害の可能性が高い場合、問題となっている権利を無効できるかどうかの確認を行い、無効化するための資料の調査をおこなう。

【調査資料例】

・先行技術文献(特許文献、非特許文献)
・対象権利関連の製品カタログ、パンフレット、取扱説明書等
・対象権利関連の展示会等の製品発表資料等
・対象会社が過去に行った無効化資料
・特許庁特許情報プラットフォーム

【調査項目(4)】

侵害性の鑑定

【調査目的】

権利の有効性が確認された場合、その権利を対象会社の技術等が侵害していないかの権利侵害の成否について、確認をし、必要性に応じて専門家に鑑定を依頼する。また、過去の鑑定書がある場合にはその内容も確認する。

【調査資料例】

・対象会社が過去に行った先行技術調査資料
・対象会社が過去に行った鑑定の資料

2.同種技術等に関する他社紛争の調査 ### 【調査項目】 ①ニュース、裁判例等の公刊物に掲載されている他社紛争 ②同業種間の評判等 ### 【調査の目的】 同種技術等に関する他社の紛争を検討することで、対象会社の製品等が現に他社の権利を侵害している可能性、今後権利を侵害する可能性、及び他社から権利侵害の主張を受ける可能性の有無・大小を確認する。 ### 【調査資料例】 ・公刊物 ・判例データベース

3.対象会社における知的財産関連紛争の調査 III.参照。

5.ガバナンス調査

【本項の解説】

 対象会社において知的財産をどのような方針・体制で管理し、取り扱っているかを調査することで、個別の調査では発見できなかった潜在的なリスク(第三者の権利を侵害するリスク、自社の権利を侵害されるリスク、自社の権利が消滅するリスク、その他知的財産関連紛争に巻き込まれるリスク等)、将来生じうる知的財産関連のリスクを予想し、又は取引実行後に知的財産管理体制を見直すことの必要性を検証することが有益である。  この調査は色々な観点が考えられるが、ここでは、1.知的財産に関する基本方針、2.知的財産(営業秘密を除く)の管理体制、3.営業秘密の管理体制、4.職務発明、という観点から調査項目を挙げた。

1.知的財産に関する基本方針の調査

【調査項目】

①対象会社が策定している知的財産基本方針や知的財産戦略等、知的財産に関するルール
②対象会社における実務上の知的財産取扱いに関する基本方針
③対象会社における知的財産に関するキーマン

【調査目的】

対象会社がいかなる方針で、自社の知的財産を管理し、他社の知的財産を利用し、あるいは自社の知的財産侵害に対して対応し、他社の知的財産の侵害を回避しているかを確認することで、対象会社における知的財産の活用度や他社権利侵害リスク等を把握する。また、知的財産の創出や管理におけるキーマンを特定する。

【調査資料例】

・知的財産基本方針
・知的財産戦略
・知的財産取扱規則
・Visual Identityガイドライン、ブランドガイドライン等のガイドライン(ブランドの場合)

2.知的財産(営業秘密を除く)の管理体制の調査 ### 【調査項目】 ①対象会社の組織体制 ②対象会社で運用されている知財管理システム ### 【調査目的】 対象会社における知的財産関連リスク(第三者の権利を侵害するリスク、自社の権利を侵害されるリスク、自社の権利が消滅するリスク、その他知的財産関連紛争に巻き込まれるリスク等)の内容及びその大小を把握すると共に、当該知財DDにおいて網羅できなかった調査箇所の補完をする。 ### 【調査資料例】 ・組織図 ・システム図 ・知的財産管理規程

3.営業秘密の管理体制の調査 ### 【調査項目】 ①対象会社の組織体制 ②営業秘密の管理ルール ③情報コンタミネーション対策 ④営業秘密管理のための人的・物的体制(保管場所、丸秘マークの印字、アクセス制限の有無・権限者の範囲など)の確認 ### 【調査目的】 対象会社の保有する営業秘密について不正競争防止法などの法令による保護を受けることが可能か、逆に第三者から営業秘密の侵害を理由とする請求を受ける可能性がないかを確認する。 ### 【調査資料例】 ・組織図 ・対象製品等の研究開発に従事する役職員の一覧及び入退社履歴 ・秘密管理規程 ・就業規則 ・入社時、退社時に役職員から徴収している秘密保持誓約書 ・共同研究先、取引先との秘密保持契約書、共同研究開発契約書

4.職務発明の取扱い方法の調査 ### 【調査項目】 ①職務発明規程の有無、内容及び策定手続 ②職務発明の対価支払いの実績 ③将来における職務発明の対価支払い可能性の有無及び金額規模 ### 【調査目的】 将来の訴訟リスク及び敗訴時の経済的なインパクトを予測する。 ### 【調査資料例】 ・職務発明規程 ・対象製品等の研究開発に従事する役職員の一覧 ・職務発明対価支払い実績

6.価値評価

【本項の解説】

対象会社のM&Aや技術提携の対象となる技術やブランド、コンテンツ等の知的財産を特定する。 特定された知的財産を定量的な側面、および定性的な側面から価値を評価し、知財経営等に資する戦略提言や投資意思決定の判断材料のひとつとする。順序としては、価値評価対象の技術・事業を特定した上で定性評価を実施し、定性評価の結果を元に定量評価を実施し価値を評価する。

1.価値評価対象の技術・事業の特定

【調査項目】

価値評価対象の技術・事業の特定を行う。
1) 特許権、実用新案権、またはその対象となり得る技術等
2) 商標権またはその対象となりうる標章、マーク、ブランド等
3) 意匠権またはその対象となりうる工業デザイン等
4) 著作物(コンテンツ及びプログラム等)
5) 営業秘密・ノウハウ
6) その他の知的財産(ビッグデータ等)
7)権利化してないが事業化が見込まれる技術

【調査目的】

対象会社のM&Aや技術提携の対象となる知的財産が、特許等(技術等)や、商標(ブランド等)、意匠(デザイン等)、著作物(コンテンツ及びプログラム等)、あるいは営業秘密・ノウハウ、その他の知的財産(ビッグデータ等)のいずれなのかを見極め、価値評価の調査対象を特定する。

【調査資料例】

知的財産の価値分析対象の特定を行う方法として以下の手法例が挙げられる。
・コストアプローチ
・マーケットアプローチ
・インカムアプローチ

調査資料は以下が挙げられる。
・対象会社保有知的財産権の一覧確認
・出願の有無、公開・登録の状況確認
・特許明細書調査
・先行技術調査等

情報リソースは以下が挙げられる。
・特許データベース
J-Plat Pat(特許庁)
NRIサイバーパテント
Derwent Innovation
・文献閲覧及び入手先
特許庁
国会図書館

2.知的財産の定性評価

【調査項目】

知的財産の価値を定性面からの評価を行う。
①事業・技術力
②技術評価、ブランド評価
③事業・技術ベンチマーク対比
④知的財産価値の経年変化等
⑤ブランドに係る経済的ポテンシャル
⑥その他(ポテンシャルや外的要因など)

【調査目的】

対象会社の事業戦力や技術評価、ブランド評価などを定性的に評価することで、投資意思決定の判断材料のひとつとする。知的財産の定性面からの評価を行う手法として、(1)対象会社の事業内容の分析(価値源泉となる製品等の特定等)、(2)、対象会社の製品等やシステム、ソフトウェアの構成の分析(含まれる知的財産の特定等)、(3)対象会社の売上構成の分析(製品等毎のライセンス料売上の比較等)が例として挙げられる。

【調査資料例】

知的財産の価値を定性評価するための調査資料として以下のソースが挙げられる。
・技術ロードマップ
・学会発表資料
・学術論文関連資料
・研究者リスト(プロフィールや過去の研究テーマ)
・研究テーマリスト
・開発プロジェクトリスト
・製品情報
・ブランディング戦略
・ブランドガイドラインやVI、CIなどブランドマニュアル関連資料
・過去のパンフレットや展示会資料
・M&Aやアライアンスリスト、共同研究リスト
・パテントマップ等技術動向の分かる資料

3.知的財産の定量評価

【調査項目】

知的財産の価値を定量面から評価を行う。
①経済的価値
②ライセンス対価
③実績保証金額
④譲渡価格等
⑤その他(アライアンス、研究開発関連、資金調達状況、将来予測等)

【調査目的】

対象会社の技術やブランドなどの知的財産の経済的価値や、ライセンス対価を定量的に評価することで、投資意思決定の判断材料のひとつとする。

【調査資料】

知的財産の価値を定量評価するための調査資料として以下のソースが挙げられる。
・企業情報データベース
・有価証券報告書
・対象会社保有知的財産一覧
・過去数事業年度の製品毎の売上一覧
・ライセンス契約書  
・担保設定に関する契約書
・知的財産報告書や知的資産経営報告書
・研究開発費
・広告宣伝費等のブランド関連投資が分かる資料
・知的財産にかかる維持管理経費の分かる資料
・市場規模及びその根拠となる資料
・製品の現状シェア・予測シェア(ポテンシャル)
・当該事業の収益・予想収益
・当該技術のロイヤリティ
・技術のライフサイクルが分かる資料