本の虫

著者:江添亮
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レールに沿わない人生を送っていたら、未だにレールに乗れていない人間のお話

レールに沿うの沿わないのという話題が、ここ数日ブログ界隈でもちきりだ。どうも背景事情には、「ブログを開設して稼ぐ方法を教えます」というセミナーを開いて稼いでいるマルチ商法もかくやと思われるブロガーの存在が出てくる。いつの世にも、本当に儲かるのは、金鉱掘りではなく、ツルハシやジーンズを売る者たちだ。

そもそも、ブログは登場してからもう15年以上は立っている赤錆びた存在であり、ブログで稼ぐというのも、すでにレールに沿った人生ではある。

普段なら、そのようなマルチ商法まがいの、速やかに忘れ去られる短命な話題には乗らないのだが、あのchokudai氏も流行にことよせてブログを書いているのを見て、私もひとつ、ブログを書いてみようと思い立った。

大学院在学中にレールに乗ったまま起業した話 - chokudaiのブログ

省みるに、私の人生はまったくもって世間の一般大衆の想定するレールに沿っていないから、あるいは誰かの参考になるかもしれないからだ。もっとも、結論で書く通り、何の参考にもならないし、(今のところは)幸運に恵まれた人生でしかないのだが。

私は誰だ。

江添亮君はプログラマーが職業である。

プログラマーという概念には、何かコードを書いているということが伴う。江添君はプログラマーが職業であるにもかかわらず、なんにもコードを書いていない。10代の頃にはWin32 APIを直接使って、必要な自動化のための処理に無駄に車輪の再発明をした挙句、GUIのフロントエンドソフトウェアを書いていたそうだが、今ではGUIなどまったく触っていない。むしろ最近はGUIを煩わしいとさえ思っており、このブログも、適当なシェルスクリプトで雛形を生成したうえで、Vimで編集し、gitでバージョン管理している。昔ならエディトウインドウに記事を執筆して投稿ボタンを押せば投稿を済ませてくれるGUIのWindowsネイティブのプログラムを自作していたところだろう。

つまり、今では自分でスクラッチから実装するよりも、出来合いのツールを組み合わせてハックする古き良きUNIX的なやり方を好むようになっている。

にもかかわらず、世間では、江添を優秀なプログラマーであると誤解している人間がいる。これは不思議なことだ。というのも、ほとんどの人間は、江添の書いた職業プログラマーが扱うほどの大規模なコードを読んだことがないはずだ。ある人間のある能力の優劣を評価する情報がない場合、その人間は平均的な能力を持っているのだろうと推定するのが最も確率的に正しい行動であるにもかかわらず、人間の評価は、相関性すらない他の評価に引きづられる。

「ビル・ゲイツは大金を持っているので、能力、人格、発想のすべてが、大金を得るに値する超人的に素晴らしいものであろう」と期待するようなものだ。

さて、前置きが長くなったが、江添亮という人物を理解するために、その歴史を追ってみよう。

幼少期

江添亮は兵庫県神戸市の垂水区にある旭ヶ丘病院で生まれた。神戸の記憶は一切ない。ただ、その後引っ越して、奈良に住んでいたことはわずかに覚えている。

その後、静岡の田舎に引っ越し、幼稚園に2年ほど通った。そして、高校を卒業するまで、静岡で暮らすことになる。

小学校と中学校には、あまりよい思い出がない。高校は、通学に片道10kmほど自転車を漕ぐ必要があったことと、平和だったことぐらいしか特徴がなかった。

江添は小学生の頃からプログラミングがしたいと思っていたが、自分のコンピューターを所有していなかった。この制約は、江添の現在につながる習慣の元となった。コンピューターを所有していなかったために、江添はプログラミングの参考書を読んで、脳内でプログラミング言語の文法を把握する必要があった。

また、当時の江添は、プログラミングには英語の習得が必要であると信じていた。そのため、英語を学んでいた。

言語を学ぶということは、江添にとって楽しいことであった。言語能力は遺伝するのだろうか。あるいは、後天的な環境によるものであろうか、江添の両親も言語の解釈を好んでいた。家には和文や漢籍がいくらでも転がっていた。

高校生になり、貴重な一夏を時給800円程度の労働に費やす代償を支払って、コンピューターを買った。そして、何年も本だけ読んで脳内で把握していたプログラミングの文法が、実際のコンピューター上で、解釈通りに動くことを確認した。そしてしばらくはMSDNによるWin32 APIの英語ドキュメントを読んで解釈して、コードを書き、解釈が正しいことを確認していた。しかし、GeForce 4 Ti 4200を積んだそのコンピューターは、ゲームに使われることのほうが多かった。

江添は、たいていのプログラミング言語のドキュメントを読んで文法と機能を解釈できたが、唯一、C++だけはなかなか理解できなかった。これは、日本語で書かれたC++の参考書は、C++を理解した者によって書かれていないためであった。そこで、江添はC++の標準規格を読み始めた。

さて、高校を卒業する頃には、江添はすっかりC++の膨大な規格の解釈という作業にとりつかれていた。高校を卒業後の進路については、何も考えていなかった。江添は高校時代をC++とゲームとゲーテに費やしていたため、大学に入るのに必要な基礎的な学力の工場を怠っていたし、親が京都への引っ越しを計画していて、親の負担を考えるに、一体どこの大学に入ればいいのか、皆目見当がつかなかった。

京都でニート生活9年間

さて、高校を卒業して、京都に引っ越した。江添の親は、モラトリアム期間の延長の方便として、京都コンピューター学院という専門学校を受験するように提案した。

京都コンピューター学院には端的に言って私が学ぶべきものはひとつとしてなかった。C++の講師はC++標準規格を理解していなかった。駅前の後者には、現在存命中の理事長であるオバハンの銅像が立っていた。生きている人物の銅像を立てるというのは天にも届くほどの醜いエゴであり、いやしくも心ある者の行うことではない。ちなみに、その理事長のオバハンはCOBOLぐらいなら書いたことはあるのではないかと思われるような演説をよくしていた。

京都コンピューター学院の入学式では、「君たちは大学に入れなくて落ちこぼれたと思っているかもしれないが本専門学校は就職率もよく教育も行き届いており最高である」などと講師が主張していた。また、謎の外人が出てきて、英語で謎のスピーチを行っていた。その内容は技術的ではなく、しかも無駄に難解な言い回しで、ポストモダンの論客がよく使う手法である、聴衆をけむにまくためにわざと難解に話しているのではないかと思われた。

ただ、これでもまだ専門学校の中では相対的にマシな部類であるそうだ。

さて、程なくしてレベルの低い専門学校をやめた江添は、京都で9年間ほどニート生活に入る。ニート期間中は何をしていたのか。もちろん、表立って見える活動としては、ブログを書いていたり、C++の規格を学んだりしていたようにみえる。しかし、大部分の時間は、睡眠、料理、運動、ゲーム、古文漢文の読解に費やされた。特に、平家物語の諸本の比較や、文覚上人について研究していた。京都は平家物語を最適な場所だ。なぜならば、平家物語の舞台だからだ。平家物語では、何万余騎と書いてある場面を、実際の土地に照らし合わせてみると、数百人も入らないだろう狭い場所であったりした。また、天皇か法皇を幽閉から開放して安全な場所に移す場面では、幽閉場所から避難場所までの直線距離が、たったの5,6kmぐらいしか離れていないなどの、文章とは違う規模の小ささに唖然としたりした。

さて、ニート期間中に、C++の参考書の執筆の話がやってきたが、出版社と著作権の代行管理と電子書籍出版に対する価値観の相違によりお流れになってしまった。その本は、いま、アスキードワンゴ編集部から「C++11/14のコア言語」として出版されている。

ブログ

江添はブログを書いている。しかし、それほどたくさんの記事は書いていないし、ひとつの記事あたりの平均のPV数は少ない。これは、江添の専門とするC++の読者の数に限りがあるということだ。江添は、その時点で話題になっている技術界隈の話の解説記事を書くこともある。しかし、そういう記事は、ほとんどの場合、PV数を稼げない。ブログで直接に広告収入で稼ぐ場合、PV数が正義である。どのような広告を貼るか、どこにどのくらいの数を貼るかなどという些細な違いは、PV数を上げて物理で殴ることより無視できる。

PV数を稼げる記事とは何か。それは対象となる読者の数が多い話題である。「朝早く起きるための7つの方法」とか、「今日から忘れ物をしないためにできる3つの対策」のような、くだらない記事がPV数を稼ぐ。問題は、この手の内容は大量にある他のブログとの差別化が一切できないため、過酷な競争に晒される。しかし、差別化のために専門的な内容にすると、対象となる読者の数が減る。また、調査に時間がかかるため執筆速度が下がる。

これは、YouTuberでも同じだ。稼いでいるYouTuberは、皆一様に同じ作り笑い顔をして、やれカップラーメンやカップ焼きそばを食べただの、やれ危ない火遊びをしただのといった、誰でもできることをしている。もちろん、基礎的な能力を満たしたうえでのことである。基礎的な能力とは、まともな高品質の撮影機材を使い、高度で手間のかかる映像編集を行い、しかも毎日新しい動画を公開するという数をこなした上でのことだ。果たして、それは好きなことで生きていると言えるのだろうか。

こうして、ブロガーやYouTuberも、レールに沿った稼ぎ方をするようになる。

ブロガーやYouTuberが稼ぐ方法はもうひとつある。元締めである。

ブログで稼ぐ方法を教えるサロン。動画投稿で稼ぐ方法を教えるセミナー。そういった教育、情報商材、元締めで稼ぐ方法である。相当に有名なブロガーやYouTuberの多くは、この元締め業に切り替えることでさらに稼ぎを増やしている。しかし、これはねずみ講やマルチ商法に似ていて、稼ぐ方法を教えると称して報酬を取り、肝心の稼ぐ方法とは、究極的には、「私と同じことをしない」と言うに過ぎないからだ。

江添は、そのようなレールに沿った行き方をしたくなかったので、ブログで稼ぐことはできなかった。

未だにレールに沿っていない現在

さて、ブログで稼ぐことができなかった江添はどのような方向に向かったのか。江添は意外にも、企業に雇用されるという、一般的にレールに沿っていると思われる選択をした。

そろそろ貯金も尽きてきたという2013年になって、ドワンゴが連絡をしてきて、成り行きで雇われて今に至る。雇われてはいるが、特に仕事はない。なので、C++の最新の規格の動向や、次の規格に入れるべく提案されている新機能をこのブログで紹介したりしている。そして、いつの間にかドワンゴ社内に出版社ができているので、ニート時代に書いていたC++の参考書も出版できた。今は次のC++17に向けた参考書の執筆を進めている。

さらに話を面白くするために事実を記述すると、女が家にやってきていきなり結婚をしたいと言ったので、結婚をしてから1年立つ。

レールに沿わない人生を歩んできた結果、未だにレールに沿っていない。

レールに沿わない人生を送るために必要なもの

レールに沿わない人生を送るにあたって必要なことはなんだろうか。努力だろうか、才能だろうか。家柄だろうか。

答えは運である。

世の中の多くのことには、乱数が関係している。リチャード・ファインマンがかつて言ったように、人間の脳は乱数を理解できるように作られてはいない。人間は乱数を理解できない。

人間は規則性のない乱数を作り出すことができない。人間は乱数にパターンを見出す。人間は、ランダムに明滅するランプと、そのランプを制御できるとされているダミーのボタンを提示された時、ボタンを押してランプの明滅を制御できたと信じる。

江添は特に努力はしていないし、才能もない。C++よりは運動や料理や古文漢文やゲームにかける時間のほうが長い。江添が現在に至った理由は、単に親が息子に9年間もニートを許すほど経済的に恵まれていたことと、たまたまドワンゴがC++の啓蒙を必要としていたこと、たまたまドワンゴに出版社ができたこと、たまたま結婚相手を探していた女が近くにいた事という、完全にランダムな結果にすぎない。そして、今はうまく言っているように見えるかもしれないが、所詮は運次第なのだから、将来はどうなるかわからない。

そもそも、数ある可能性の中で、現在が最高だという保証もないのだ。もし、江添が普通に業務用のコードを書くプログラマーを最初から目指していたならば、いまよりよい結果になった可能性もある。

結局、世の中は運次第であれば、希望はないのだろうか。そうではない。乱数は理解できるし、理解したならば、利用することもできる。

デビュー前のビートルズは、レコード会社から、「今時はやらない古臭いバンド」と言われた。ハリーポッターの著者のJ.K.ローリングは、何十もの出版社に持ち込みをかけては断られた

成功が乱数に従うということは、どんなに低い可能性であったとしても、試行回数を増やせばいずれは当たるかもしれないということだ。もちろん、大多数は当たらずに日の目を見ずに沈んでいく。

スティーブン・キングは自分の作品が知名度で売られているのではないかという思いから、作品を変名で出版したところ、全く売れなかった。ビル・ゲイツの思想は、天文学的な大金を所有しているにもかかわらず、常人からそれほどかけ離れたものではない。

ある共通の製品を提供する各社のうち、運によって一つがたまたま抜きんいでて、競合他社に対して大した優位性を持っていないにもかかわらず、運の影響によって僅かに市場シェアが高いがために、そのまま市場を独占してしまうことはよくあることだ。

世の中で大成功したと言われている人間も、最初の起爆剤となる運が少し良かっただけかもしれないのだ。

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CC BY-ND 4.0: Creative Commons — Attribution-NoDerivatives 4.0 International — CC BY-ND 4.0