本の虫

著者:江添亮
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アウティングは違法か?

以下のようなニュースがある。

「ゲイだ」とばらされ苦悩の末の死 学生遺族が一橋大と同級生を提訴

内容を要約するとこうだ。

同性愛者の男Aは、厳格な異性愛者の友人Bに好意を打ち明けた。Bは否定した。Bは周囲に、Aは同性愛者であることを暴露した。Aは心療内科に通院するほどの精神的苦痛を受けた。Aが籍をおく大学の相談室は、Aの相談に対して、同性愛問題を正しく把握せず、見当違いの性同一性障害を専門とする病院を紹介した。この対応にAは精神的苦痛を受けた。Aは精神的苦痛を理由として自殺した。

Aの遺族はBを訴えた。理由は、Bが周囲にAが同性愛者であることを暴露したことによる精神的苦痛は損害賠償を請求するに足るからだ。

Aの遺族は大学を訴えた。理由は、「同性愛者、うつ病、パニック発作についての知識・理解が全くなく、模擬裁判の欠席は前例がない、卒業できないかもしれない、などとプレッシャーをかけた」ことによる精神的苦痛は損害賠償を請求するに足るからだ。

Bは、「恋愛感情をうち明けられて困惑した側として、アウティングするしか逃れる方法はなく、正当な行為だった」と主張した。

大学は、「大学の対応に問題はなかった。個別の事故は防げない」と主張した。

この裁判は興味深いので、有名な判例となるはずだ。この記事では、アウティング(同性愛者であることを周囲に暴露すること)の是非について論じているが、この件は同性愛者とは切り離して考えるべきだ。というのも、

「ホモではない男がホモの男から言い寄られたので拒否したうえで、気味悪く感じ周囲に吹聴した。ホモは自殺した。」

と書けば、なるほど、ホモフォビア(ホモ恐怖症)の男による理解のない行動が悩める男を自殺に追い込んだ。悪だ。と思えるかもしれない。しかし、同性愛者という文脈から切り離すと、

「人Aは人Bから言い寄られたので拒否したうえで、気味悪く感じ周囲に吹聴した。Aは自殺した。」

となる。では、ここに別の文脈をつけてみよう。

「20代の若くて美人な女子大生が、40代でハゲでデブでキモいオッサンに言い寄られたので拒否したうえで、気味悪く感じ周囲に吹聴した。オッサンは自殺した。」

これはどうだろうか。当然の結果だろうか。それとも、ルッキズム(Lookism、人を見た目の良し悪しで判断する美貌主義)とジェロントフォビア(Gerontophobia、加齢恐怖症)の女による理解のない行動が悩める男を自殺に追い込んだ。悪だ。と思うだろうか。

文脈を取っ払うと、どちらもやっていることは同じだ。そして、現実を見ると、同性愛者の男性カップルと同じ程度には、40代の男と20代の女の年齢差カップルは存在するのではないか。もしそうであるならば、後者と前者は同じ程度に起こりうる問題であり、当然同じ判断が適用されるべきである。残念ながら、具体的な統計が見つからないので、カップルの比率は感覚でしかないのだが。

言い寄られた立場から考えると、どちらも言い寄られたことに対して不快感を持ったとしてもおかしくはない。厳格な異性愛者が同性愛者から言い寄られたら不快感を持つであろうし、20代の若い女性が40代の性的魅力のない男から言い寄られるのも不快感を持つだろう。その不快感の解消方法として、周囲に相談をすることは悪であろうか。

と考えていくと、私はこの問題の善悪を判断できかねる。納得の行く説明付きの判決が出て欲しいのだが、おそらくどちらに転ぼうとも私の常識では納得できないだろう。

大学に関しては、私は責任がないと考える。というのも、私は「無知が罪」となることはおかしいと考えているからだ。大学の相談室に同性愛に対する高度な医療知識がなかったために、間違った診療科を紹介したことは罪ではない。また、クラス替えや留学の希望に対する対応でも、同性愛が絡まない他の事例と代わりがないのであれば、特別に差別されていたとは言えない。それに、大学は学生の私的な生活に踏み入るべきではない。